「…何をそんなに見ているんだ」
「秀一さんの格好よさを噛みしめていました」
久しぶりに身体を動かしたい、という私の希望で、截拳道を秀一さんから学んでいた。あまり人通りのない河原で暫く秀一さんと身体を動かしていたけれど、今はとりあえず休憩タイムだ。しゃがみ込んでじっと秀一さんを見ていたのが気になったのか尋ねられて本音をぽろりと漏らす。秀一さんが呆れたように息を吐いたけれど、そう思っているのだから仕方が無い。
(秀一さんからしたら私の動きって物足りないんだんだろうなぁ…)
男女の差もあるだろうけれど、何より大きいのは経験の差だ。私はそれこそやられたら自分が死ぬような目にあったことはない。けれど、秀一さんは違う。だからこそ、私には加減しているけれどいざというときは容赦が無い。
それこそ多少のキャットファイトや経験の無い男性ぐらいには何とかなるだろうけれど、空手の経験がある毛利さんや京極さんに勝てるかと言われれば絶対に無理だ。
「強く、なりたいなぁ……」
ただ護られているのは嫌だ。護られているよりも、護りたい。失いたくないからこそ、護ってあげたい。秀一さんは、護るためなら命でさえ投げ捨ててしまいそうだから。
「頼むから、截拳道は自分の身を護ることだけに使ってくれ」
「それじゃ、意味がないですよ…。秀一さんのこと、護りたいんです」
秀一さんが私の頭を撫でながら、隣に座る。じっと秀一さんを見ていると、秀一さんは少し照れたのか腕の中へ私を引き寄せて顔を見られないようにした。
「俺は、お前に死なれると困るんだ」
「私も困るんですけど」
「…まぁ、そうなんだろうが…。そういうことじゃなくて、だな」
珍しく、秀一さんの歯切れが悪い。少しだけ首を傾げながら秀一さんを見上げると、少しだけ顔が赤い。それが、ちょっとだけ可愛い、なんて思う私は末期だろうか。
「俺は、惚れた女を危険に晒すような男にはなりたくないんだ。頼むから、護らせてくれ」
耳元で囁くように呟かれた言葉に、今度は私が顔を赤くする。ずるい。そんなこと言われたら、私が引くしかなくなってしまう。
「秀一さんって、ずるいです」
「いつものことだろう」
「そうですけど…。ずるいなぁ」
私だって、護ってもらえることが嬉しくないわけじゃない。好きな人に護ってもらえることだって嬉しい。宣言のように言われたら、どう考えたって私の負けだ。
秀一さんに手を伸ばして、そのまま額にキスをする。すると、秀一さんは驚いたみたいで動きを止めた。その隙に秀一さんの腕から抜け出して、立ち上がって背伸びをする。
「ちゃんと、護ってくださいね?私、どこに行っちゃうか分からないから」
「…あぁ。護ってやる。ずっと、な」
それは、この先ずっと一緒にいてもいいということなのだろうか。どう進むか分からない未来を思い描いて、口角を上げた。
2016.02.26
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