Marguerite

偽物と本物の雨が降る

 
「ダイヤのジャック?それがDJの意味だっていうの?」
「ああ…。奴らはカード…日本でいうトランプになぞらえて、標的の人物をそう呼んでたんだ!」
「ジャックは、廷臣か兵士だっけ?」
「えぇ。ダイヤはお金を意味するけれど、王子や息子の意味はないわ…」

杯戸公園に行くまでには、あまり時間が無い。先に私が答えを提示して、少しでも向こうで時間が取れるように促す。それが、いいことかはわからないのが少し怖いけれど。

「呉羽、電話お願いしてもいいかしら?」
「土門さんの講演会事務所よね?私も同じこと考えてた。HPは昼からゴルフみたいだけど、書いてないしね。でも、私よりジョディさんの方が適任じゃない?職業的にも」
「そうね…。携帯借りるわ」

女三人でテキパキと行動していると、マジマジとコナン君が哀ちゃんと私を見ていた。哀ちゃんもその視線に気付いたのか、何、とコナン君に尋ねる。

「あ、いや…オメー変わったなあって思ってよ…。だって、前までは奴らがからむと『止めなさい』『危険だ』『逃げた方じゃいい』ばっかだったじゃねーか!呉羽もこんなにこういうことに関わってくることも少なかったしよ」
「当たり前でしょ?今回はあなたが不用意に仕掛けた発信機と盗聴器が、彼らの仲間の一人の靴の裏に付着してしまってるのよ!あれが見つかればあなたやあなたの周りの人間、つまり私にも火の粉が飛んでくるんだから!」
「私も似たようなものかなー。狙われてるからってビクビクしたくないし、私にも護りたい人がいるもの」
「そりゃそうだけどよ…」

哀ちゃんは、歩美ちゃんが『逃げてばっかじゃ勝てない』と言ったことが心に強く響いたのだろう。ジョディさんに証人保護プログラムを受けないと言ったとき、確か彼女は逃げたくないと言っていた筈だ。ジョディさんは小さく咳払いをして、こっそりと私たちに親指を立てた。

 + + +

「いいか?行くのはオレと先生と呉羽だ!!絶対車から出るんじゃねーぞ!!」
「あ、ああ…」

ジョディ先生が電話をしている間に私がジキルとハイドの話をふと思い出したように話して、恐らく原作よりかは早く杯戸公園に着けたと思う。勢い良く走りだしたコナン君とジョディさんに続いて、私も辺りを見回しながら走る。

(キャンティとコルンは……あそこか!)

ビルの屋上と給水タンクが見える位置。その先に、土門さんを見つける。コナン君とジョディさんもスナイパーである彼らの位置の確認をして、同時にコナン君の司会にスプリンクラーが視界に入る。

「ねえ先生…拳銃、持ってる?」
「え?拳銃!?い、一応持ってるけど…」
「消音器は?」
「あ、あるわよ…」

戸惑うジョディさんに対して、コナン君はスプリンクラーを見る。上から狙撃するであろう彼らが気にしているのは雨。それは、傘を差される可能性があるからだ。
コナン君の言葉に、三人で木の影に隠れる。そして、ジョディさんがスプリンクラーに向けて拳銃の引き金が引いた。それはスプリンクラーに辺り、水が勢い良く出る。その水を雨と勘違いした人たちは次々と傘を差し始めた。
すぐにその雨が止むかと思われたけれど、ちゃんと空から水が落ちてきてくれたことにほっと息を吐く。実際よりも暗殺を止めるのは早かったような気がするけれど、なんとかなったということだ。

「本当に降ってきた…」
「恵みの雨ね…」
「あ、移動しちゃう」

土門さんに続くように、ゾロゾロと野次馬も移動する。その中に飛び込むようにコナン君が走っていき、タイミング良く水無さんが靴を落とす。それを掴んで、その靴をコナン君が発信機と盗聴器を回収しようとしたのを見て息を飲む。

(知ってても、怖い…)

「まさか私を…つけてきたの?」
「ち、違うよ…。たまたま偶然…」
「そう…ありがとう」

水無さんの手が、コナン君の首に触れる。後に彼女はこちらの味方になると知っていても、身体が強張る。水無さんが自信の靴を履いて、ディレクターたちの元へ戻る。その姿を、じっとコナン君は見つめていた。

 + + +

「ええっ!?あのアナウンサーに見つかったじゃと!?」
「まさかバレたの?私達が追ってる事…」
「いや…なんとかごまかせたと思うよ…。発信機と盗聴器にも気づいてねぇし…」

驚いて言う哀ちゃんと博士に、事の詳細を告げる。発信機と盗聴器を回収出来なかったのは痛いかもしれないけれど、結局それによって情報を得るからいいことなのかもしれない。毛利さんが、ちょっと大変なことになるけれど。

(っ、あれ…でもあの時って…)

ジンたちに毛利さんが狙われることを思い出す。一応秀一さんがジンの手の中にある盗聴器と発信機を壊すけれど、それがその通りにならなければ?危ないのは、毛利さんだ。

「呉羽、オメーも行くだろ?」
「ごめん…。私哀ちゃんたちと行く。ちょっと、米花町ですることある」
「…大丈夫か?」
「ん、死ぬようなことはないよ」

多分。絶対と言えないのが、悲しいけれど。コナン君たちにそっちも無茶したら駄目だよ、と言って博士のビートルに乗り込む。ほぼ初めましての博士には申し訳ないけれど、乗せて貰うことにしよう。
哀ちゃんとコナン君のやり取りを見ながら、私がどう動くべきか頭の中の整理を始めた。

2016.06.03
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