Marguerite

薬と毒

 
「貴方、本当に工藤君と一緒じゃなくてよかったの?」
「ん…。悩んだんだけどね…。というかすみません、なんか当たり前みたいに車乗っちゃって…」
「それは構わんが、君も狙われておるんじゃろう?あまり動くのも危ないと思うがのォ…」
「あはは…」

博士の言葉に、苦笑いをしておく。一応ジョディさんじゃないFBIの人が身近にいるんで、と言って誤魔化しておいた。あまりチョロチョロするな、とは言われているけれどこれは巻き込まれただけだから不可抗力ということにしておこう。

「にしても、何をするつもり?」
「んー…コナン君の盗聴器と発信機、水無さんにバレる可能性は勿論だけど、ジンたちにバレる可能性もあるじゃない?で、ジンたちが真っ先に目をつけるなら毛利探偵かなって」
「でも、私達と一緒にいれば…」
「そうなんだけどさ、嫌な予感するから。今日競馬あるし、毛利さんが何かの拍子で外に出る可能性が無いわけじゃないじゃない?」

念には念を入れておくのも悪く無いかなって思って。私がそう言えば、彼女は呆れたように息を吐いた。まさかそこまで考えていたの?と問われて、曖昧に笑う。考えていたわけじゃない。知っていた、だけだ。

(知っている、というのは怖いなぁ…)

上手く吐き出せば薬だけれど、タイミングを間違えれば毒だ。私の言葉ひとつが、どう未来を変えてしまうかは分からない。勿論、変えてしまった未来のその先も。
毛利さんたちに連絡したほうがいいよね。私はそう言って、鞄の中から携帯を取り出した。

 + + +

(そろそろ、探偵事務所にいるかな…)

米花町まで博士の車で戻ってきて、私は早々に別れた。することがある、なんてことを言ったけれど実際出来ることなんて少ない。別れてから結構な時間が経ったし、恐らくはこっちに戻ってきている筈。前回会ったときはハロウィンパーティーだったから顔が分かってくれるのかが危ういのだけれど。

「悩んでも仕方ないかなー…」

ポアロの横の階段を上がって、扉の前に立つ。少しだけ自分が緊張しているのが分かる。それは、ジンに姿を確認される可能性があるからか、それとも秀一さんにバレる可能性があるからなのか。
二回扉をノックして、扉を開ける。扉に鍵はかかっていないで、中には毛利さんがいた。目が合うと、依頼人かを尋ねられる。

「えっと…依頼人って程じゃないんですけど、コナン君います?」
「あの坊主の知り合いか?アイツなら外に出てるが…」
「あー…そう、なんですね。というか、私、毛利探偵とも一度会ったことありますけど…」

やっぱり顔を忘れられていたのか。あの船を出た後早々に服部君にバイクを走らせてもらったし、ほとんど喋っていない。顔もガッツリ化粧をしていたし、分からないのも無理はないか、と思う。

「ハロウィンパーティーのときにですね、一応セイレーンしてました…」
「あぁ、あのときの!でも何であの坊主に用があるんだ?」
「や、毛利さん…蘭ちゃんでもいいんですけど、工藤君の家の鍵ないかなーって」
「何だぁ?蘭とも知り合いか?」
「クラスメイトです…」

やっぱり歳相応に見られていないのか。そう思いながら、毛利探偵にブラインドちょっと閉めていいですか?と確認を取って閉める。これなら、すぐにはジンたちが銃を撃つことはないだろう。ほんの少し、ちらりと見える銀髪の彼らを視界に入れて口角を上げる。

「くそっ!このポンコツTV!肝心な時はいつもこうだ!」

少しばかりイラ付いた様子で、バンッ、と毛利探偵がテレビを叩く。昔のテレビじゃないんですからもうすこし丁寧に扱ってくださいよ、と言って私がテレビの前にしゃがんでテレビの様子を見る。チャンネルを変えても砂嵐のままで、完全にアンテナをやられたらしい。

「競馬、お好きなんですか?」
「あー?まぁ、それなりにな。で、お前はどうするんだ?」
「んー…、ちょっとコナン君待ってみててもいいですか?ここに来る前に今から家に戻るーって言ってたんで」
「まぁ、好きにしろよ。俺は競馬聞いてっから」
「はーい」

テレビの電源を落として、その場にしゃがみこんだまま窓の外を見る。毛利探偵の真後ろの窓はブラインドが閉められていて、外から狙うキャンティやコルンたちからは随分と狙いにくくなっているだろう。ただ、これはただの時間稼ぎでしかないのだけれど。
時計を確認して、窓の方へと寄る。遠くから、屋根が開けられながら走る車を見つけて息を吐く。これなら、もう大丈夫だろう。

(あ、やば…)

ふいに顔を上げた瞬間、怖い顔をしたジンと視線が交わる。挑戦的に口角を上げれば、彼はイラついた様子で私を見た。彼がそのまま何かを言うかと思ったけれど、それよりも先に私と彼の間を、サッカーボールが遮る。覚悟はしていたけれどこれはなかなか驚く。

「うわぁ…」
「コラァ!どこのどいつだ!!」
「ごめんねー。ちょっと強く蹴りすぎちゃって…」
「て、てめぇ…」
「それより競馬どうなった?そのイヤホンで聞いてたんでしょ?」

子どもらしくそう告げるコナン君を見て、口角を上げる。そのまま黒い彼らをちらりと見上げればコナン君もろとも撃つつもりらしい。キャンティがコナン君に向けて銃口を向ける。けれど、ソレを止めるようにベルモットがジンに声をかけた。

(ベルモットが毛利さんと工藤君を助けようとするのはわかるけれど、私をわざわざ助けようとするのは何故かな…)

ハロウィンパーティーの後、結局私は彼女に何も聞けていない。誰が私を匿おうとしているのか、どうしてベルモットがそれに協力をしているのか。ジンでないことだけは、分かるけど。
そんなことを考えていると、キン、と金物が当たるような音がした。それは、盗聴器を壊した秀一さんの放った銃弾だろう。

(カッコいい、なぁ…)

遠くに見えるビルから放つソレは、かなりの距離がある。あそこからジンの持つ盗聴器を狙うなんて、何故出来るのか。緩みそうになる頬を抑えるように、下にいるコナン君たちに視線を向けた。

2016.06.06
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