場所は変わって、杯戸中央病院。自動販売機で適当に2つ飲み物を買って、小さな探偵を探す。水無さんの声で話しているその姿を見つけて、私は小さく口角を上げた。
「ふぅー…」
「お疲れ様。コーヒー飲む?」
「お、サンキュー」
電話を終えて一息つくコナン君に近づいて、缶コーヒーを差し出す。ブラックだけど平気?と尋ねれば別に気にしねぇ、と返しながらコナン君が缶を開けた。私も自分の為に買ったココアを開けて、口に含む。
「帰るところか?」
「んー…出来ることならこのまま逃げたいんだけど、ね」
ちらり、と上を見れば上からはジェイムズさんとジョディさん、そして秀一さんが私達を見下ろしていた。今からこのまま逃げるように帰っても地獄だけれど上に上がっても地獄だ。恐らく待つのは説教。
「あー…どうしよう。助けて」
「何をそんなに困ってるんだよ?」
「また組織が関わることに首突っ込んで怒られることに。今から逃げるように家に帰ってもこのまま上に上がっても地獄だよ」
「で、帰るのか?」
「そっちの方が怖いから一応顔出しとく…」
せめてコナン君先頭歩いて、とコナン君を盾にするように後ろから付いて行く。上から見下ろす秀一さんが私を見た瞬間顔をしかめたのを私は見逃さなかった。多分、何でここにいるんだと言いたいのだろう。
(あー…やっぱり毛利探偵のとこからこっそり帰るべきだったかな…)
あそこから真っ直ぐ帰っていたら見られなかったかもしれないけれどどうだろうか。ただ、過ぎてしまったものはしょうがない。何て言い訳をしようかな、なんて考えている間に水無さんがいる病室に辿りついて、コナン君はジョディさんに話しかける。そのとき、ジョディさんの後ろにいた秀一さんと視線が交わる。
「呉羽、」
そんなに離れていた訳でもないのに、その声を聞くのが久しぶりに感じたのはそれだけ緊張していたということだろうか。秀一さんはジョディさんに一言二言話して、足をこちらへと動かす。
「行くぞ」
すれ違いざまに私の腕を掴んで、秀一さんが私の腕を掴む。容赦なくそのまま歩く秀一さんに、私は戸惑いながら着いて行った。
+ + +
「それで、なんであそこにいた?」
「コナン君か毛利さんに工藤君の家の鍵を借りようかなー、なんて。久しぶりに推理小説でも借りようかと……」
「鍵、持ってなかったか?」
「普段は持ち歩いてないんで、ふらっと思いつくままにですよ」
病室の屋上にて、案の定秀一さんに問われる。私が嘘ではない答えを返していると、秀一さんが呆れたように息を吐いた。
「ジョディが、土門の暗殺を阻止しようとしたときには一緒だったと聞いたが?」
「うっ……」
そこを突かれると、もう言い訳は出来ない。私は秀一さんに降参だと言うように、両手を上げて息を吐く。知っていながら尋ねるなんて、ずるい人だ。
「さすがに、同級生の父親が危ないかもしれないのに……黙って見てるなんて出来ませんよ」
「……呉羽、」
腕を捕まれて、引き寄せられる。腕の中に閉じ込められて、耳元で名前を呼ばれることにぞくりとした。その声色に私が弱いことを知っていてそんなことをしてくる秀一さんは、本当にずるいと思う。
秀一さんを受け入れるように私も彼の背に腕を回して、ぎゅっと抱きつく。
「お前は……全て、知ってると言ってたな、」
「そう、ですね……」
「それは……どこまで、知ってる?」
秀一さんの言葉に、どきりとした。私はぎゅっと秀一さんの服を掴んで、胸元に顔を埋める。どこまで、答えていいのだろうか。私が知っていること全てを吐き出せば、もしかしたら全てが終わるのかもしれない。組織が潰れて、コナン君も、元に戻れるかもしれない。でも。
「言えない……言えないよっ……」
「っ……すまない、」
私を抱きしめる秀一さんの腕の力が、強くなる。言えるわけが、ない。確かに全てを秀一さんに告げれば、もっと早く解決出来るのかもしれない。来葉峠のことだって、しなくてすむかもしれない。けれど、変えた未来で全員が生きていられると絶対に言えない。私は、この温もりを手放したくない。
「ごめん、なさい……」
何度も謝る私をあやすように、秀一さんは私の背中を叩き続けた。
2016.06.08
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