Marguerite

触れて、触れられて

 
お風呂から上がって本を読んでいると、玄関の鍵が開けられる音がした。私の家の玄関を開けられるのは私以外にはたった一人で、その人物が帰ってきたことに頬を緩める。

「お帰りなさい」
「あぁ」

秀一さんが家の中に入って、再度鍵を閉める。声をかけながら彼の元へ歩けば、秀一さんが私のことを引き寄せて額にキスをする。

「風呂上がりか、」
「はい。秀一さんも先に入っちゃいます?」
「そうだな」

秀一さんが離れることを惜しむかのように、私の唇にキスをする。ここ最近、秀一さんからのスキンシップが多い気がするのは気のせいだろうか。

「呉羽、」
「ん……」

何度も繰り返されるキスに、秀一さんに寄り掛かる。今まで帰ってきてすぐにキスをされることは何度もあったけれど、こう何度もされるのは初めてだ。

「何か、あったんですか…?」
「……?何が、だ?」
「や……キス、いっぱいしてくるんで…」
「病院にいると、薬品の臭いが凄くてな…。呉羽の匂いが落ち着くんだ」

私の首筋に顔を埋めて、呟くように言う。私も秀一さんの背中に腕を回してぎゅっと服を握れば、少しだけ口角を上げた秀一さんが擦り寄るように甘える姿は、大きな猫みたいだ。
あまり表情には出さないけれど、秀一さんにも疲れはあるのだろう。それか、やっぱり組織と真っ向勝負の可能性があるとして不安なのか。たまにしか見れない秀一さんの甘えに、もう少しだけこのままでいいかと私も口角を上げた。

 + + +

お風呂を終えてご飯を食べた後も秀一さんの甘えは止まらず、私を膝の上に乗せて後ろから抱きつかれている。そのまま何をするわけでもなくて、私の肩に頭を乗せているだけだから私も気にすること無く携帯を扱ってはいるのだけれど。

「あ」
「どうかしたか?」
「今日、学校に転校生来たんですけど…その人が水無玲奈に似てるんですよ。本人は他人の空似だって言ってましたけど」
「女か?」
「いいえ、男子生徒です。秀一さんが何か情報を得てこいっていうならそうしますけど」
「いや……いい。むしろ、あまり近付くな」

ぎゅ、っとお腹にある腕の力が強くなって、同時に後ろから首筋にキスをされる。ぞくりと身体が震えるのを感じながらお腹にある秀一さんの手を上から握れば、その手を取られて指を絡ませ合う。

「珍しいな。普段なら、聞かずに近付くだろう」
「あんまり好き勝手して、愛想尽かされても嫌ですから」
「そんな男に見えるか?」
「どうでしょう。でも、信頼はしてますよ」

秀一さんの方を向いて、私から秀一さんの頬にキスをする。まさかキスされるなんて思っていなかったのだろうか。少しだけ驚いた秀一さんに思わずクスリと笑う。けれど、すぐにそれじゃ足りないというように唇を塞がれて。

「っ、ん……」

くぐもった声が、部屋に響く。甘えるように、甘やかすように何度もキスを繰り返していく。何度繰り返した頃だろうか。ふいに秀一さんが私の顔をじっと見つめていた。

「秀一、さん?」
「……どこにも、行くなよ」
「え?」
「頼むから、俺から離れるな。傍に、いてくれ」
「私は、秀一さんが望む限り傍にいますよ。ずっと、」

身体ごと秀一さんの方に向いて、頬に手を添える。不安げに私の顔を見る秀一さんに触れるだけのキスをして、笑みを浮かべる。私は、秀一さんから離れるつもりなんてない。秀一さんが嫌だと言うそのときまで、私は隣りにいる。

「私の身体全部、秀一さんのものです。何をするのも、秀一さんの自由ですよ」
「誘ってるのか、それは」
「そういうつもりじゃ、ないですけど…」
「それは残念だな」

少し安心したように秀一さんが口角を上げて、私にキスをする。俺も、もう呉羽のものだな。そう言って笑う秀一さんに、ドキリと私の胸が高鳴った。

2016.06.16
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