Marguerite

近付く別れ

 
秀一さんが部屋を出てすぐ、入れ替わるように佐藤刑事が入ってきた。その手には、紙袋が持たれている。

「高木君に聞いたんだけど…今回亡くなった女性と荷物がごちゃ混ぜになってたのよね?」
「みたいですね…。すごく驚かれてました」
「ごめんなさい、もっと早く気付いていればよかったのだけれど…」
「いえ…。こういうこと言ったら不謹慎だけど…ホントは、ちょっと嬉しいんです」

謝罪をした佐藤刑事に、私の本心を述べる。佐藤刑事が嬉しい?と不思議そうに首を傾げるのを見て、私は頬を緩める。

「警察の方が連絡した人って、私の恋人なんですけど…本当に死にそうな顔してくれてたんで。愛されてるんだなぁって」

ホントはこういうことで知るのって卑怯な気もしますけど。そう言って笑えば、佐藤刑事も一緒に頬を緩める。私も、もしそういうことがあったら悲しんでくれるのかしら、なんて言って。

「高木刑事なら、泣きそうですね」
「ふふっ、そうだといいわね。それにしても、恋人ってもしかしてさっきここ出た人?」
「あ、はい。バスジャック事件のときもいたから、確かお会いしたことはありますよね?」

事情聴取のときに佐藤刑事も一緒だったはず。そう思って言うと、あぁ、見覚えがあると思ったのよ!と思い出したように言った。それにしても随分年上捕まえたわね、と言われてとりあえず笑みだけを返しておく。佐藤刑事よりも年上だし。
そのとき、佐藤刑事が思い出したように私に紙袋を差し出す。受け取ったその紙袋の中には、女性物の服。

「ほら、呉羽ちゃんの服血まみれだったでしょう?今回の件のお詫びも込めて私から」
「えっ…何か申し訳ないんですけど…!?」
「いいのよ!私も選ぶの楽しんじゃったから」

妹が出来たみたいで、楽しかったわ。そう言った佐藤刑事は本当に楽しそうで、そうなると断る方も悪い。どっちにしろ帰るにも服はいる。秀一さんに取ってきてもらうのも厳しそうだし、有りがたく受け取っておくことにしよう。

「すみません、なんかいろいろと…」

服が年齢よりも少しばかり大人向けな気がするのは、気にしないでおこう。多分、年齢知ってても歳相応に見えないってやつな気がする。

「後はもう検査とかなかったわよね?」
「はい、とりあえず一通りは」
「そう。もしかしたらまた何か警察から連絡するかもしれないから、そのときは協力してもらってもいいかしら?」
「分かりました。服、有難うございました」

一応事故とはいえ死亡者も出ているから、あまり長いこといられないのだろう。仕事に戻る佐藤刑事を見送って、紙袋の中から渡された服を出して広げる。

(あ、でも可愛い)

高校生向けか、と言われれば微妙なところだけれども二十代前半ぐらいならそれ相応だろうか、というような可愛さもある服装だった。なるほど、佐藤刑事にはこういう服が似合うと思われているのか。そんなことを考えながら、病衣を脱いで貰った服を着る。

「ちょっと呉羽!?大丈夫なの!?」
「……病院では静かにしたほうがいいと思うんですけど」
「そういう問題じゃないわよ!!」

バンッ、と荒々しく扉が開いて、そこに入ってきたのはジョディさんだった。服を着ていたのが救いだろうか。私に詰め寄るようにしながら言うジョディさんの声は大きくて、病院という場所にはあまり合っていない。

「秀から聞いたけど、また事故に巻き込まれたんですって?」
「あはは…ピンピンしてますよ」
「みたいね…。怪我は?」
「ないです。応急処置とかしてたからたまたま救急車で同伴しただけですしね」

眉根を寄せて心配そうに私を見るジョディさんに、笑いながら答える。本当に貴方ってよく巻き込まれるわね、なんて呆れたように言われて、不可抗力なんです、なんて言葉を返す。実際、前の通り魔事件も今回の交通事故も防げたものじゃない。もしかしたら通り魔事件なら防げたのかもしれないけれど、いつ起こるか分からない以上は難しかっただろう。

「そういえば、捜査の方にいなくて大丈夫なんですか?」
「あぁ、それなら一応大丈夫よ。次に動くのは夜ね」
「夜…………」

もう、そんなところまで進んでいるのか。もう後何日もしないうちに、表向きだけれど秀一さんは死ぬことになる。水無さんと作戦を交わすのも、今日だろうか。小さく息を吐いて、窓の外を見上げた。

2016.06.24
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