静かな部屋に、携帯の着信音が響いた。ディスプレイに表示されている名前はジョディさんのもので、その着信が何を示しているのか、すぐに察しがついた。
「もしもし?珍しいですね、ジョディさんがかけてくるの」
何も知らないフリをして、電話に出る。電話越しに、ジョディさんが息を飲むのが分かった。
『本当はこんなこと電話で話すより直接会った方がいいんだけれど…ニュース、見てるかしら?』
「見てませんけど…何か、ありました?」
『来葉峠で、車が燃えたの…。黒のシボレー、』
絞りだすような、ジョディさんの声。恐らくは、高木刑事と会って携帯の確認をした後なのだろう。消えそうな声を遮るようにジェイムズさんの声が聞こえた。
『呉羽くんかね?』
「はい…。本当、ですか?来葉峠でジボレーが燃えていたって、」
『…さっき、その車の中にあった焼死体の指紋とジョディ君の携帯に残っている赤井君の指紋と照合したら一致したそうだ』
「そう、ですか…。なんか、実感無いですね、」
そういえば、ジェイムズさんは私がこの一連の作戦を知っていることを知っているのだろうか。敵を騙すならまず味方から、ということでジョディさんたちには何も告げずにいたぐらいだから知らないでも不思議ではないけれど。
「車を燃やしたのは、組織の人間…ですか?」
『……その件については、すまないが一般人である君には教える事はできない』
「…そう、ですよねぇ…」
『だが、赤井君の恋人であった君にもある程度の詳細を知る権利はあるだろう。まだこちらでも詳細を把握出来ていないことも多いから、後日連絡をしよう』
「分かり、ました」
震える声を演出して、泣きそうなのを堪えるように見せる。多分、ジェイムズさんは知らされていないような気がする。もしかしたら知っているのかもしれないけれど、知っていないのを前提とした方がボロは出ないだろう。
通話を終わらせて、画面を切った携帯を眺める。何が起こるか分からないから、今まで連絡を取り合っていた秀一さんの携帯には連絡が出来ない。新しい連絡先を得られるのは、沖矢さんが携帯を新調してからだろう。
(広い、なぁ……)
部屋の中を見回してそう思うのは、いつもいた秀一さんがいないからだろうか。元の世界にいた頃は一人ということに慣れきっていて思わなかったけれど、いざこうして一人だと思うと少しだけ広く感じる。秀一さんが使っていた食器類があるから、それでかもしれないけれど。
「ずるい人、」
傍にいる、なんて言ったくせに、秀一さんは傍にいない。何度も謝罪をしながら抱かれた身体は、誰にもあげないというようにくっきりと痕が残っている。一週間もすれば、消えるけれども。
ふいに、持っていた携帯の画面が光る。届いたメールを開封すれば、私がこっそりと進めていた件に関することで。
(ごめんなさい、)
黙ってこんなことをするのは、卑怯だろうか。結局秀一さんに告げることが出来なかったソレは、秀一さんが知れば十中八九怒られる。でも、護られるだけは嫌だ。
届いたメールへの返信をして、携帯を無造作にポケットに入れた。
2016.08.03
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