「これは驚いた。随分と早かったですね」
「呉羽に、何をしていると聞いたんだ」
「まだ、少し楽しませていただいただけですよ」
男が、両手を上げて私から離れる。秀一さんは酷く不機嫌そうな顔で、私に手を出していた男を睨んでいた。
「見張りは、全て気絶させた。約束通り、銃は所持していない。これで十分だろう」
「えぇ。まさか、見張りがこうも簡単に突破されるとは思いませんでしたが」
銃を、持ってきていない。秀一さんは確かにそういった。衣服を整えながら秀一さんを見ても、確かにライフルバッグは背負っていない。上着の内ポケットに銃を隠し持っていない限り、確かに銃を持っているようには見えない。
「敵地に無防備に乗り込んでくる辺りをみると、やはりこの恋人が余程大事のようですね」
「だったら、問題でもあるか?」
「貴方のせいで死んだ女がいるというのに、随分といいご身分ですね」
「アイツと呉羽は、関係ないだろう」
ピリピリとした空気が、張り詰める。けれど、先に折れたのは男の方だった。このまま話していても意味はありませんね、と言って、内ポケットから拳銃を取り出す。そして、シリンダーを回転させて中の銃弾を取り出す。
「ひとつ、賭けをしませんか」
「賭け、だと?」
「えぇ。彼女にサイコロを振ってもらって、出た数の目だけ弾を詰めるんです。勿論、ペイント弾ですけどね」
「……分かった」
「決まり、ですね」
男が、私の座るベッドの上に銃弾をバラバラを落としていく。ペイント弾とはいえ、大丈夫なのだろうか。そう思って秀一さんを見れば、視線が合って。
――そんな顔をするな。
言葉には発していないけれど、男を睨みつけるときとは違う穏やかな表情に、そう言われている気がした。私は小さく頷いて、男が銃を用意するのを見る。新しく詰められている弾は、ペイント弾なのだろう。
「一応試しに打ちましょうか」
男がそう言って、壁に拳銃を向ける。そして引き金を引けば、黒いペイントが飛ぶ。確かに男が入れた弾はペイント弾らしく、死ぬことはないことに息を吐いた。
「さぁ、サイコロを。勿論、ペイント弾を引き当てた方が負けですよ」
「入れられる、弾の数は?」
「6発ですよ。あまり大きい弾数を入れても面白みがありませんからね、3面ダイスにでもしておきましょうか」
何故そんなものがあるのか。そう言いたいけれど、今はこんなことを言っている場合じゃない。男からサイコロを受け取って、それを転がす。ベッドの上に落ちたサイコロが現す目は、3。
「では、3つですね」
男がペイント弾を3つ入れて、シリンダーを回す。そして、その銃を秀一さんへと渡した。
「先行は、お譲りしますよ」
「…………」
秀一さんが確かに弾が入っていることを確認するように銃を見て、それを自身の頭へと向ける。そして、指を引き金に当てる。瞬間、男が怪しく口角を上げるのが見えた。
「だめっ……!」
私が声を発するのと、同時だっただろうか。秀一さんが、引き金を引いたのは。けれど、引き金を引いてもペイント弾は出ずにいた。男が、顔をしかめる。
「大丈夫だ、俺は悪運が強い」
「でも……!」
「本当に、そのようですね」
この男は、何かをするつもりだったのだろうか。それともたまたまなのか。顔をしかめて秀一さんを見ながら、銃を受け取る。そして、アッサリと自身へと向けて引き金を引いた。
「っ………」
男が使った拳銃からペイント弾が発射されることはなくて。これで、秀一さんがペイント弾を浴びなければ実質的に秀一さんの勝ちだ。けれど、何故だろう。何かが、おかしい気がする。男は、自分にペイント弾が当たることはないと分かっているような。
「これで、全てが決まるな」
「えぇ」
秀一さんが、拳銃をこめかみに当てる。引き金を引いて、ペイント弾が出れば秀一さんの負け。出なければ、秀一さんの勝ちだ。
(お願いだから…何も出て来ないで……!!)
私がそう願うのと同時に、秀一さんがゆっくりと引き金を引いた。
2016.09.25
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