Marguerite

燃えたアパート

 
土曜日で学校も休みで、たまにはお昼までベッドの中でダラダラと過ごそうと思っていた矢先に鳴った携帯電話。ディスプレイに表示された名前は沖矢さんで、起きたくないとは思いつつも首を傾げながら通話に切り替える。何か組織絡みで何かあったのだろうか、と考えながら。けれど、電話を通して聞かされた言葉に、私は聞き返した。

「で、怪我はないんですよね?」
「えぇ。この通りありませんよ」
「良かった。まぁ、家具とか全部燃えちゃったから良くはないけど…」

場所は変わり木馬荘。連絡を受けて駆け付ければものの見事に沖矢さんの家は燃え尽きていた。そういえばそんなことあったな、と沖矢さんから連絡を貰ったときに思い出したけれど後の祭り。ただ、アパートの人たち全員にアリバイは無いし原作通りならば問題はないだろう。私はあくまで死んだ兄の友人で私も良くしてもらっていた人から火事で家が燃えたと言われて駆けつけた、みたいなところだろうか。

「今から警察の人来るんですか?」
「えぇ。同席しますか?」
「んー…。これ以上何かあっても怖いですしね」

あるのはどちらかと言うと犯人探しなのだけれどそれは言わずに小さく息を吐く。多分だけれどコナン君が来るまでは刑事さんも放火だとは思ってないような雰囲気だったし、これからのことを話している素振りでもしていれば大丈夫だろう。住人らしき人が帰ってくるのを見ながらどうしたものかと焼けたアパートを見上げた。

 + + +

「哀ちゃん、顔色悪いけど大丈夫?」
「え……」

コナン君の後ろに何かに怯えたような素振りを見せる哀ちゃんに声をかければ、哀ちゃんは私の方を見上げて驚いたのか目を見開く。瞬間、ハッ、と息を吐いて私の後ろを見る。秀一さんには哀ちゃんをあんまり怯えさせてもらいたくないことをそれとなく伝えることにしよう。

「貴方、何でここに……」
「アパートの住人に知り合いがいて、火事で家が燃えたっていうからたまたまね。あ、別に私の知り合いだからって安全ってわけじゃないだろうし存分に疑っていいよ」
「そう…。知り合い、なのよね?」
「恋人で無いのは確かかな」

苦笑いをして、ちなみに知り合いアレね、と沖矢さんを見る。一瞬だけ私と視線が合ったので私が眉根を寄せればその意図に気付いたのか哀ちゃんは驚いた様子でアパートの住人という三人を見る。そんなに変幻自在にプレッシャーをかけられるのはいいとして哀ちゃんを怖がらせるのは切実に止めて欲しい。護るんじゃなかったのか。

「哀ちゃん、大丈夫?」
「え、えぇ……」
「組織、関係……?」
「……よく、分からないわ」

哀ちゃんだけに聞こえるようにそっと耳打ちして聞いてみるも、哀ちゃんは少し困ったように首を横に振る。もしこの場所離れるなら私から言うけど、と言えばもう大丈夫よ、と言われてしまったのであまりこれ以上聞くのも止めたほうがいいだろう。

「にしても、ホントに少年探偵団は好奇心旺盛だねぇ。哀ちゃんいいお母さんになりそう」
「……少年探偵団もそうだけど、いいの?一応貴方の知り合いの家が燃えたんでしょう?」
「まぁそうなんだけど相手も子どもじゃないしねー。多少の持ち合わせはあるだろうし本気で困ってるなら私の家に泊めてもいいし」
「はぁ!?」

弓長警部とそのとなりにいた刑事さん、子どもたちや警部たちの後ろにいたアパートの人たちまで何があったのかとこちらを見た。アハハ、と視線が合ったのをごまかすように苦笑いをして視線を反らす。各々それぞれしていたことに戻り始めたのを見て私は哀ちゃんに視線を合わせるようにしゃがんで小声で話し始める。沖矢さんが若干笑ったのはしっかりと見たので後で文句だけは言おうと思いながら。

「泊めるって貴方、恋人いるんでしょう…?」
「あー……なんか焼死体で発見されたっぽい?」
「焼死体…!?」
「まぁ実物見たわけでも何でもないんだけどほら、赤井さんFBIだからそっちの人から…。他言無用でお願い」
「それはいいけど……」

複雑そうな顔で私を見る哀ちゃんを見てふふっ、と笑みを浮かべる。あんまり実感無いから大丈夫だよ、と言ってみたけれどどうも哀ちゃんは納得していないらしい。一応死んだということになっていることはコナン君から伝わる可能性も考えて話したけれど哀ちゃんは知らないんだっけ、と一人首を傾げる。

「それ、聞いたのいつよ」
「えーっと、何だっけ、来葉峠で車燃えてたでしょ?アレの後」
「ってことは、そこで?」
「多分?詳しいことは一般人だから駄目だって」

そういえばジェイムズさんに詳しいことは後で連絡をすると言われていたけれど連絡されてないな、と思い出す。赤井さんが突然いなくなったわけだからバタバタはしていただろうし私がアメリカに行っていた、ということをジェイムズさんが知っているから時差とか考えていてそのままちょっと忘れられているのかもしれない。
何でそんなにケロッとしてるのよ、とむしろ哀ちゃんが泣きそうな顔で私に言って苦笑いを浮かべる。これは真純と一緒で本当のことを言ったら怒られそうだな、なんて思いつつ実感がないから、と小さく漏らした。

2017.3.28
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