Marguerite

仮住まい


場所は変わって、アガサ博士の家。正直哀ちゃんには結構会ってるのだけれどアガサ博士と会った数は少ないので若干緊張するものがある。水無さん追いかけているときに出会って、後はそれこそ赤井さんを変装させる、という話をして打ち合わせたりしたときだろうか。博士にぴったりとくっついている哀ちゃんに不謹慎ながら頬を緩ませて、博士と話す沖矢さんを見る。

「実は住んでいたアパートが燃えてしまいまして…。よろしければ新しい住居が決まるまでここに居させてもらえないでしょうか」

実際自宅が火災で燃えて住めなくなった場合って消防署から罹災証明書を貰うんじゃなかったっけ。自分自身がそんなことになったことが無いだけに首を傾げながら思う。私の記憶が正しければ火災の場合不動産などに言えば早急に手続きしてもらえたはずだけれど、あくまで元いたところの話だ。この世界でどうなるかはわからないしそもそも仮住まいというのは必要なわけで。

「もちろん暇な時は博士の研究の助手でも何でもやりますよ!」
「あ、あぁ…。構わんよ…、この子がよければじゃが…」

博士が足元にいる哀ちゃんに視線を移すけれど、ブンブンと首を横に振って嫌がる。まぁ、年齢が年齢だし見ず知らずの男性がいきなり一緒に住むとなったら抵抗したいものもあるだろう。

「うーん、私の家来る?」
「確かに呉羽は一人暮らしですし防犯ぐらいにはなりそうですけど…」

女性の一人暮らしのところに転がり込むのは道徳的にちょっと、と少し困ったように声を漏らす。確かに恋人でもない年下の女の子の家に転がり込むのはちょっとヒモっぽいっていうか関係を聞かれたときに困る。兄の友人が転がり込むってアウトだろう。
ふいに視線を感じて哀ちゃんを見れば、彼女は眉根を寄せつつ私を見ていた。多分、私の発言が不満だったのだろう。

「じゃあ、新一兄ちゃんの家使う?」
「うん、急にいなくなったお兄ちゃんだよ」
「あ、私のクラスメイト。ほら、隣の洋館の」
「ボクも呉羽姉ちゃんも鍵預かってるから!」
「ホー…」

沖矢さんが少し屈んでコナン君と視線を合わせたあと、隣の工藤君の家を見る。立派な洋館だけどいいのかい、と視線はそのままに沖矢さんが尋ねればコナン君はそれを了承して、どうやら沖矢さんがコナン君の家に居候することはこのまま確定となりそうだ。哀ちゃんがコナン君にどういうつもりなのかを聞いてるのを見て少しだけ苦笑いをしながら沖矢さんを見る。

「沖矢さん、車は無事なんですよね?」
「えぇ。幸いアパートから離れた場所に駐車場を借りていたので…」
「じゃあ後で日用品買いに行きます?服とか下着類いるでしょ」
「デートのお誘いですか?」
「一緒に行くなんて言ってませんけど」

秀一さんだったらむしろ喜んで一緒に行くんだけどな、なんてことを思いながらコナン君が沖矢さんに留守はしっかり守ってよ、と言いながら鍵を渡しているのを眺める。そこでふと私自身も工藤君の家の鍵持ってるな、と思い出して家の鍵と一緒になっているその鍵を取り出した。

「コナン君の鍵じゃなくて私の鍵渡しておこうか?私と沖矢さんなら連絡先分かってるし」
「大丈夫だよ。今度新一兄ちゃんに合鍵貰うから」
「そう?じゃあ工藤君に合鍵貰う前にいるときは連絡くれたらそっち行くよ」
「うん!じゃあ僕呼ばれてるから行くね」

少年探偵団らに呼ばれてコナン君は慌ただしくアガサ博士の家を出て行く。残されたアガサ博士と沖矢さんがまた改めて御挨拶に伺います、と話しているのを聞きながら哀ちゃんに視線を落とせば不安そうに私を見ていることに気付いて手招きをすれば哀ちゃんは恐る恐ると私に近付く。

「哀ちゃん甘いもの平気だっけ?」
「別に嫌いじゃないけど……」
「そ。じゃあ今度女同士でカフェでも行かない?話したいこといっぱいあるんだよね」
「……愚痴なら聞かないわよ」
「そんなんじゃないから大丈夫だよ」

しいていうなら火事になったアパート前で話していた赤井さんの件についてだろうか。あまり詳しく話すことは出来ないしなにより明美さんのこともあったりするからきっと別の事にはなっていくのだろうけれど。
沖矢さんはそろそろ出るつもりなのか呉羽はどうしますか、と声をかけられて行こうかな、と小さく告げる。

「沖矢さんも悪い人ではないからちょっとずつ慣れてくれたらいいよ」
「……努力はするわ」
「ふふっ、ありがと。またね、哀ちゃん」

哀ちゃんに手を振って、博士にもお礼を述べて先に玄関に向かう沖矢さんに続く。沖矢さんは哀ちゃんに警戒されることは予想していたらしく、よく打ち解けられたな、と関心するように言葉を漏らした。まぁ、最初に疑われてたのはあるけれど。私がそう仕向けてみたせいで余計に。

「それで、買い物行くんですか」
「先にデートに誘ったのは呉羽でしょう?」
「残念ながらデートのつもりはないですけどね」

しいて言うなら美味しいものが食べたい。そんな言葉を呟いてみれば沖矢さんはフッ、と笑みを浮かべて買い物が終わったら何か食べましょうか、と言う。朝から呼ばれてなんやかんやいい時間なんだ、それぐらいは許されると思う。私と沖矢さんは他愛もない話をしながら車に向かった。

2017.07.13
prev|162|next
back
ALICE+