「衣類関係は買ったし、日用品も買ったし……。あと急ぐものってありますかね」
「最悪衣類と食べ物あれば何とかなりますからね。車も無事だからすぐ買いに行けますし」
「うわぁ楽観的……。家燃えてるんですけど」
「幸いなことに荷物は少なかったですから」
「そりゃあそうだろうけど」
それでいいのか、FBI。万が一のことがあるし、と私が言ってライフル関係は避難させておいたのは正解だっただろう。シボレーが燃えたから、と車のカタログを見ていたような気がするけど大した問題じゃない。あとあの沖矢さんの家にあったものといえばそれこそ衣類や日用品だろうか。
「あぁ、それともデート時間伸ばそうとしてくれてます?すみません、気付かなくて」
「あ、私そろそろご飯食べたいですね」
「照れ隠しですか?」
「違います」
何でだろうか、秀一さんが沖矢さんになってからはグイグイ来られている。中身が秀一さんだから嬉しくは思うけれど顔が沖矢さんなのが悲しい。沖矢さんの顔も嫌いではないのだけれど。
「呉羽は夜ご飯は何が食べたいですか?」
「そこ私に振ります?んー、だったらてっとり早くバイキングとかしちゃいますか?上にありますよね」
「じゃあそこにしましょうか」
衣類関係は買った後に一度車に荷物を置いているから手荷物は日用品の細々したようなものだけだけれど持っているのは沖矢さんで、荷物どうします、と尋ねればそのままでいいですよ、とのことだ。まぁ確かに家にあるものは好きに使っていいよ、と工藤君からも状況を話した有希子さんにも言われたからそこを甘えるとなるとそれこそ歯ブラシとかそういうのだけなので重くはないだろう。
「あぁ、帰りに薬局に行ってもいいですか?」
「いいですけど……。買い忘れか何かありました?」
「いえ、ちょっと。いつか分かりますよ」
「はぁ……」
楽しげに口角を挙げるところを見ると恐らくは私にも関係があるものなのだろう。けれど、薬局で買うものなんて普段使う化粧品かあるいは常備薬、たまに食品とかだっただろうか。何かあったっけな、と思考を巡らせていると沖矢さんはそれに気付いたのか私の頭をくしゃりと撫でて深く考えなくていいですよ、と告げる。考えさせたのは沖矢さんだろうに。
「楽しみは、後に取っておきましょう」
「好きな食べ物を最後まで取っておく人は恋愛が下手って聞いたことありますよ」
「一理あるかもしれませんね。呉羽が中々振り向いてくれないところを見ると」
「それはどうも」
ちょっと投げやりになっているのは勘弁してほしい。今からご飯を食べて帰るとなると家に帰りつくのは20時とかその辺りだろうか。出かけた翌日に朝から作るのは面倒だし明日のお昼はもう学校に行く途中で買って行くことにしよう、と少しだけ遠い目をした。
+ + +
薬局の駐車場で一緒に来ますか、と尋ねられたけれど特に買うものがあるわけでもないので車で待っておくことにした。いい子で待っていてくださいね、なんて子どもに言い聞かせるように言われたのはスルーした。そういえばテスト目の前じゃなかったっけ、なんて学生らしいことを考えていると車の扉が開いて、沖矢さんが乗り込む。
「お帰りなさい。早いですね」
「えぇ、買うものは決まってましたから」
「未だに私は何かわかりませんけどねー」
「……呉羽、」
突然の秀一さんの声に、胸がドキリと音を立てる。そのまま沖矢さんの顔が自然に近づいてきて、何をされようとしているのか理解した瞬間私は口元を手で覆い隠す。
「オイ、」
「だって、沖矢さんなんだもん」
「目を閉じれば一緒だろう」
「目開けたら沖矢さんだもん」
「……目の前に呉羽がいるのに触れないのは堪えるな」
はぁ、と秀一さんが息を吐いて私の方に頭を乗せる。確かに秀一さんから見る世界は何一つ変わらないのだ。少し自分の発した声が聞きなれている自分の声と違うぐらい。行動やしぐさは意識はしているのだろうけれど。
「今週、有希子さんが来る」
「それは、秀一さんに会えるって期待していいですか?」
「時間によるがな」
日付いつですか、と沖矢さんに聞いて返ってきた言葉に頬を緩める。成程、有希子さんいいタイミングだ。沖矢さんが私が頬を緩めていることを不思議に思ったのか、時間次第では会えんぞ、と言葉を漏らす。
「ふふっ、その日テストなんでお昼で終わりなんです。急いで会いに行きますね」
「成程な。あぁ、待ってる」
「会えるの、楽しみにしてます」
テスト勉強ってなんだっけ、という感じであまり勉強はしていないのだけれど秀一さんに会えるならもうそんなことどうでも良くなってきた。私から離れて運転する体制に座り直した沖矢さんを見ながら、顔を綻ばせた。
2017.07.14
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