Marguerite

熱を帯び始める

 
赤井さんに案内されたのは、ホテルのディナー。ドレスコードのある店らしく、来る途中で用意されていたカクテルドレスへと着替えた。ピンクを基調とした、ふんわりと広がるシフォンタイプのスカートはひざ上までで、可愛いながらも上品なデザインである。赤井さんもブラックタイなわけで。
こういうテーブルマナーの慣れとかが問われそうな店にこんな慣れてなんかいない人間を連れてくるのはあまりよろしくないのではないのだろうか。

「……あまり、力を入れなくていい」

赤井さんは自然な動作で、私の腰を引き寄せながら言った。慣れない様子で辺りを見回す私に気付いての言葉なのだろう。
元々予約でもしていたのだろうか。お店の人は赤井さんと私を広いフロアにある席ではなくて奥の個室へと案内した。個室になるその場所は狭いものではなくて、かつ夜景が綺麗に見える。恐らくフロア席よりも高いものになるのだろう。

「……何か、あったんですか…?」
「勘がいいのは、正直ありがたいな」
「赤井さんがここまで堅苦しい格好をするから、仕事かなって」

そりゃあ一瞬期待したのは事実だけれど。でも期待したのと同時に無いな、と思ってその考えを捨て去ったのは言うまでもない。

「隣の個室が目的だが、さすがに一人で来るのはアレだからな…」
「だからってわざわざ服まで用意したんですか」
「食事代はこっち持ちだ、褒美とでも思っているといい」
「……何の?」
「………さぁな」

怪訝な顔をして訊いた私は、さぞ可愛くないのだろう。まぁいいや、と自分の中で自己完結して、とりあえず出された料理に手を付ける。赤井さんはポケットからイヤホンのような物を取り出して、耳に当てる。盗聴器、なのだろうか。一応相手は仕事中なので伺うだけにしておく。
赤井さんは、食べつつも時折耳元を気にしている。

「……お仕事なら、何かあったとき私よりFBIの人の方がよかったのでは?」
「…………」

赤井さんは手を止めて、私のことをじっと見る。どうしていいかわからずに私が彼を見ると、彼は左手で私の頬に触れ、そのまま滑らせる。

「赤井、さん……?」

じっと私を見つめるその目は何か言いたげで、でも、それが何なのかは分からなくて。赤井さんは無言のまま私の頬を滑らせた手を再度私の頬に触れて、私の髪を耳にかける。

「何でだろうな……」
「え……?」

立ち上がった赤井さんは、そのまま私の耳元に顔を近づける。赤井さんの顔が私の顔のすぐ横にあるのを感じて私が硬直していると、彼の唇はそのまま私の耳に触れる。
軽く耳に触れたソレはすぐに離れて、でも、赤井さんが離れても私の耳は熱を持ったままで。むしろ、触れられたときよりも熱を帯びていく。

「お前と来たかった、とでも言っておこう」
「……じゃあ、今度は仕事が口実じゃなくて連れて来て下さいよ」

赤井さんの顔なんて見てられなくて、プイッと横を向きながら答える。目の前に座り直した赤井さんが笑うのが分かった。
 
2014.09.01
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