Marguerite

後で悔やむから後悔なわけで

 
翌日。人をからかうだけからかって楽しんだ赤井さんはまだ日も昇る前に家を出た。そもそもなぜ彼は未だに私の家にいるというのか。多分ホテルに戻るのが面倒なだけなのだろうけれども。私の家に入れば衣はともかく食住に困ることはない。
そんなどうでもいいような話は置いておいて。学校についてから、やけに視線を感じる。遠巻きに感じる視線は決して陰口などによるものではなくて、興味対象としての視線。昨日あんな場所に行ったのだから警戒していればよかった、と思うのと同時に後悔しても時すでに遅し。
鈴木園子からの視線は、止まることはない。

(まぁ、話しかけられない限りは答えられないのだけれど)

チラチラとこちらを見る視線。親友である彼女にも話は伝わっているらしく、彼女も時折私の方を見ている。幼馴染の姿はないので伝わってないのが救いなのだろうか。…彼なら、問答無用で声をかけてきそうだ。
最も、彼女に話しかけるというまでの確証は無いらしい。文字通り昨日の私は化粧で化けていたのだ。髪も学校用のサイドポニテではなくてアップにしていた。とりあえず場所が場所なので大人びた格好だったのですぐにはバレないだろう。似てたけど、そうなのかな?ぐらいの気持ちで止まってください。
ただでさえ工藤君には話しかけられたし、有希子さんなんて買い物をした仲だ。ジョディさんもそれなりに話しましたね。赤井さんは論外です、語弊があるかもしれないけれど家に泊まりに来る仲です。嘘は言っていない。
正直な話、赤井さんに会ったことによって忘れかけていた自覚はあるけれど私は平穏に生きていたいのだ。
静かに、遠巻きに公式CPを眺めたいなっていうその程度。通行人Aぐらいの気持ちだ。何故こんなにも興味を持たれるのか。すべて赤井さんのせいだ。

(本当に気になるなら、話しかけてくるよね……)

とりあえずこの件は、見て見ぬフリをすることにしておこう。

 + + +

とりあえず何事もなく1日が終わった。赤井さんが来るにしても来ないにしても、そろそろ食材を買わなければいけない。一人だったら適当でもいいけれど赤井さんが来ることもあることを考えると、やっぱりそれなりの物は作りたいと思うのは乙女心なのだろうか。
たまには凝った料理でもしてみようか、と思うもパッとあまり思い付かないのが悲しいところ。適当に買ったものたちを袋に詰めていたとき、隣にいた人が何か紙切れのようなものを落とした。

「え、あ……」

ひらり、と落としたそれに気づかず、出口へと向かう。外に出られてしまったら見失ってしまうかもしれない。私が買ったものは量がなかったので流し入れるかのように袋に入れて、その人の後を追う。
店から出る寸前のところで、彼の腕を掴む。振り向いた彼の顔に、私はつい数秒前の自分の行動に後悔をした。

(そういえば、この人確か一人暮らしだった……)

振り向いた彼はいきなり掴まれた腕と私の顔を驚いた顔で見比べる。

「落し物、です……」

先程彼が落としたソレを、裏返しのまま差し出す。表に何が映っているのかなんて言われなくても分かる。
彼がそれを受け取ったのを確認して走って逃げようと踵を返す。けれども、脚を動かすよりも一瞬早く、彼が私の腕を掴んだ。

「コレ、すごく大事なものだからお礼がしたいんだけど…」
「いや、たまたま見ていただけですし大丈夫です。それに出来れば食材を一刻も早く冷蔵庫に入れたいので」

半ば逃げるようにして目の前の人物から離れる。後ろから私のことを引き留めるような声がしたけれど、そんなものに構っていられなかった。

2015.03.28
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