日本酒や焼酎は酔いが回りやすいから苦手だ、と言っていたのを聞いたことはあった。確かに料理に使うつもりで日本酒を買っていたのは事実だ。また、それを無造作にキッチンに置いていたのも。だが。
(さすがに匂いで分かると思うんだがな……)
いつも以上にベタベタとくっついてくる呉羽を見て、思う。問題は自分の顔が沖矢である、ということだろうか。沖矢であるときに呉羽の方から甘えてくることは殆ど無い。そのため、最近は俺が何かをしなければ彼女に触れることは出来なかったから嬉しく思うのはあるのだが。
「秀一さん、好きー」
「……今日は、掃除に来るんだがな」
「んー?ふふふ、ちゅーしていい?」
「好きにしろ、」
笑みを浮かべながら、呉羽が俺にキスをする。やたらと引っ付いてくるのは構わないが、今日は呉羽のクラスメイトで工藤新一の幼馴染である彼女らが来る筈だ。
「顔が沖矢だが、いいのか?」
「私、沖矢さんの顔も好きだもん。それこそ秀一さんがいなくて、沖矢さんに好きだって言われたら付き合っちゃう」
「ホー……」
俺の脚の間に膝を付いて、首に腕を回す。頬や唇に何度もキスをして甘える姿は可愛らしく思う反面、彼女の瞳に反射して映る自分の姿は見知らぬ男。あまり、気分がいいものでないのは確かだ。
「呉羽、」
「んー?っ、んん…!」
呉羽の唇を塞いで、無理矢理にキスをする。驚いて少しだけ開いた唇に舌をねじ込んで、絡ませる。わずかに香る酒の匂いを感じながら、彼女の後頭部を押さえて逃げられなくする。
「ふっ……んん、ぁ、」
「は……どうした?キス、したいんだろう?」
「ん…激しいの、とか…考えてなかったんだもん」
唇を尖らせて言う呉羽の頭を撫でて、口角を上げる。抱きついて甘える彼女の背中を軽く叩いてやれば、酒が入ったことにより眠いのか頭を肩に置いてしがみついてくる。
「もうすぐ掃除をしますけど、寝ておきますか?」
「行っちゃ、やだ、」
「っ、」
呉羽の言葉に、思わず息を飲む。普段ならあまり言うことがないであろう言葉。イヤイヤ、と駄々をこねる子どものように首を振って、腕の力を強くする。
刹那、ゆっくりとリビングの扉が開く。やはり、もう来ていたらしい。沖矢に抱きついている呉羽を見て、彼女らが息を飲んだ。年上の恋人がいる、ということだけは知っているらしい彼女らは、沖矢に抱きついている呉羽を見て驚きを隠せないのだろう。
人差し指を口元に当てて、静かにするようにお願いをすれば少しだけ頬を染めて二人がコクコクと頷く。
「秀一さんは、私のだもん……」
「そうですね。大丈夫ですよ、どこにも行きませんから」
「ん……」
規則的に背中を叩いて、呉羽を眠りに落とす。やがて呼吸は規則的になって、彼女の身体の力が抜ける。酒が入って眠ると暫くは起きてこないことが多いから、掃除の間はもう起きないだろう。呉羽の身体を抱え上げて、扉のところでどうしていいか分からずにこちらを見ていた二人に向けて笑みを浮かべた。
「すみません、変なところ見せちゃって」
「それはいいんですけど……呉羽、どうしちゃったんですか?」
「私が料理に使うつもりで置いていた日本酒を、間違えて飲んだみたいですよ。ちょっと、ベッドまで運んできます」
呉羽の為にも、俺自身の為にもあまりそれ以上は触れないでおいた方がいいだろう。さっきの図だけ見れば恋人の不満を泣きそうになりながら愚痴っていたのを慰めていたように見えないこともない筈だ。
(次に変装を解くときは、甘やかしておくか……)
呉羽の額にキスをして、ベッドに寝かせる。頭を撫でてやれば頬をわずかに緩める彼女の寝顔に自身も口角を上げて。起きてきたときが楽しみだ、と思いつつ部屋を後にした。
2016.07.14
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