基本的に秀一さんに甘い自覚はある。多分、秀一さんも私に甘い自覚はあるだろう。お互い大抵のことは許しあうし、どっちかが頑固になればどっちかが折れていた。
「秀一さんなんて知らない、」
頬を膨らませて、秀一さんから視線を反らす。やってしまった、という秀一さんの顔が視界に入ったけれど知らないものは知らない。我ながら子どもっぽい怒り方だという自覚はあるけれど今はそういうことを言ってるときじゃない。
「呉羽、」
「知りません」
腕を掴まれたけれど、私の視線はそっぽを向いたままだ。くだらないって自分でも分かってるけど何となく許せなくて。秀一さんを困らせるだけなことは分かっているのに。別にソレをされたからと言って秀一さんに愛されてない、とか思ってるわけじゃない。ただ、何だろう、複雑な乙女心。
「さすがに真っ二つはつらい」
「……そうだな」
「別に、愛されてないとか思ってるわけじゃないですけど、」
「悪かった」
「謝るの早すぎ」
他人が見たらくだらない、なんて言われることだって分かってる。でも。
「オムライス折角ハート型にしたのに…」
「悪かった」
「結構!手間かかってるんですよ!コレ!!」
バンッ、とテーブルを叩いた振動で食器が揺れる。秀一さんの前にある皿に乗ったハート型のオムライスは、見るも無残に真っ二つだ。何故二つに割ろうと思った。なお、オムライス上にケチャップでハート型を描いてみたりもしたけどそれも一緒に真っ二つ。悲しい。
「もう秀一さんにはハート型のオムライス作らない」
「頼む、作ってくれ」
「むしろ割れた状態で出すんだから」
「……それは困る」
秀一さんが頭を抱えながらぽつりと呟く。最終的には食べるんだから、と言われたらそれまでだけどなんとなくハート真っ二つは悲しい。眉根を寄せて申し訳なさそうな秀一さんと目が合って、視線を逸らす。目を見ると、許しちゃいそうになる。
「呉羽、」
「……やだ」
「俺が悪かった。次からは気を付ける」
私が折れるよりも先に謝る秀一さんってどうなの。いや、怒ってるには怒ってるのだけれど。多分。割ってしまったのはどうしようもないのは分かってるけれど。
「……目。閉じて」
「……?」
秀一さんは私の突然の言葉に首を傾げながら瞼を閉じる。ここまで無防備な秀一さんはそれこそ寝ているときぐらいだろうか。少しだけ眉根を寄せて不安げな秀一さんの顔を見ながら立ち上がって、手を伸ばす。
「っ……!」
「…もう、いいですよ」
バチンッ、とわりといい音がしたけれど仕方がない。秀一さんの額は、薄っすらと赤くなっている。目を開けた秀一さんはそこを指で撫でて、デコピンか、と口角を上げながら小さく呟いた。
「何が言いたいんですか」
「いや、キスでもされるのかと思ったからな」
「今は駄目」
「今は、な……」
気を取り直して食事だ、とでも言うようにオムライスを食べ始めた秀一さんを見て唇を尖らせる。これはきっと食べ終わったらキスしてくるのだろう。嫌いじゃないから、いいのだけれど。
2017.03.27
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