Marguerite

桜のお菓子

*2017年ホワイトデー

学校が終わったら家に来てくれ、と秀一さんに連絡を貰った。何かあったかな、とカレンダーを見れば3月14日でそういえばホワイトデーだったと思って頬を緩めた。毎年何だかんだでキッチリお返しをくれるからちゃんと覚えてるんだなぁと実感する。むしろ私の方が忘れかけていることが多いぐらいだ。

「呼び鈴鳴らさなくてもいいか…」

放課後になってやってきた工藤邸。秀一さんの変装の為だったりただ遊びに来たのだったりと工藤君の家だというのにもう来ることに慣れてしまった家に勝手に入る。工藤君も私が頻繁にここにでいりしていることは知っているし文句もないだろう。

(問題はどの部屋にいるかだなぁ…)

スリッパを履きながらこの家の広さに苦笑いをする。沖矢さんがいるところ、なんて主に沖矢さんが使わせてもらっている部屋かキッチン、図書室辺りだろう。とりあえず近いキッチンから確認しようかな、とキッチンの扉を開いて。

「…………」

閉めた。バッチリ目が合ったけど何か気のせいだろうか、何かおかしかった。赤井さんだけど赤井さんじゃないし沖矢さんだけど沖矢さんじゃなかったというか。何と言うか、違和感がありすぎて逆に凄い。族に所属している感ある。

「人の顔を見るなり扉を閉めるな」
「いや……違和感凄すぎて……。何かそういう族の人っぽいですね?」
「一応、呉羽に赤井と沖矢どちらがいいか聞こうと思ってたんだ」
「秀一さんで」

どっちか選ばせてくれるというのなら秀一さんを選ぶ。秀一さんも分かっていたらしくやっぱりな、なんて言って変装を解いて秀一さんに戻る。というか、秀一さんがいつも来てる服に沖矢さんの顔だったわけだけれどこれで私が万が一沖矢さんがいいと言ったら着替えたのだろうか。変声機すら付けてないけど。

「3月14日に呼び出したのは、期待してもいいんですか?」
「あまり大したものじゃないがな、」

これ持って行け、と渡されたトレイにはティーポットとティーカップ。どこに、と私が尋ねればリビングの方だと言われてそこに向かう。言われるがままにリビングに向かえば、リビングのテーブルには洋菓子店の箱。箱の大きさからして中身は1個や2個ではないだろう。箱の隣にティーポットとティーカップを置いて頬を緩ませながら秀一さんを見上げた。

「開けていい?」
「好きにしろ。その為に買ってきたんだからな」
「有難う御座います」

ここに置いていた、ということは常温保存のお菓子なのだろう。珍しく今年は女性向けにラッピングされたものじゃなかったなー、とペリペリと包装を剥がしていると、秀一さんは私の頭を撫でてその場を離れる。コーヒーでも取りに行ったかな、と思いつつ貰ったものを見てみれば予想通りパウンドケーキやクッキー等の焼き菓子だ。これを全部一人で食べるのは結構かかるかもな、と思いつつ一足早い春をモチーフにされただろう桜のクッキーを取って包装を開けて口に運ぶ。

「美味しい、」

サクサクとしてて、桜の香りが鼻を抜ける。そういえば秀一さんはどこに、と出て行った扉を見ればタイミングよく秀一さんが戻ってくる。その手には別の洋菓子店と見られる箱。クッキーを頬張りながら首を傾げれば秀一さんがフッ、と笑みを浮かべてリスみたいだな、なんて言ってくる。そういえばアメリカでは野生がチョロチョロしてるんだっけ。

「そっちは何ですか?」
「桜のロールケーキとチーズケーキだったか?あとまだ何かあったな…」
「待ってどれだけあるんですか」
「嫌いか?」
「好きですけど……」

太ったら責任取ってくださいよ、と次のパウンドケーキに手を伸ばす。秀一さんは持っていた箱をテーブルに置いて私の顎を掴んでまじまじと私の顔を見る。ゴクン、と口の中に残っていたクッキーを飲み込むのと同時に秀一さんの顔が近付いて、唇が触れた。

「んんっ……!ぁ、」
「……甘い、」
「当たり前、ですっ……!」

ただ口の中を確認するだけのように舌が触れて、すぐに離れる。秀一さんは私が来る少し前まで煙草を吸っていたのだろうか。苦味が残された口の中を消すように私は手に持っていたパウンドケーキを頬張った。

2017.04.02
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