Marguerite

痛みの中の温もり


突き刺すようなお腹の痛みを堪えるように背中を丸めて瞼を閉じる。普段も下腹部から下が重苦しくなるような独得の感じはあるけれどもこんなにも痛みが襲うのは随分と久しぶりな気がする。とりあえず学校には欠席の連絡は入れたから、痛みにさえ耐えればいいだけの話だ。

(秀一さんに会いたいなぁ……)

どうして生理前や生理中は人恋しくなるのだろうか。同時に、何故涙脆くなってしまうのか。秀一さんに会いたいと思うのと同時に瞼から涙が落ちて、けれど今ではそれを拭うことすら煩わしくて息を吐く。枕元に置いてあるスマホを取って見ればまだ時間は8時過ぎ。声だけでも、と一瞬考えたけれど電話をするには早すぎる。私は再度瞼を閉じて身を丸めた。

 + + +

普段はほとんど鳴ることがない携帯が鳴った。ディスプレイに表示される名前は呉羽で、平日である今日は学校ではないのだろうかと通話に切り替えて耳元に携帯を当てるが、呉羽の声は聞こえない。鞄の中で何かのはずみで画面が起動し、発信されたのだろうか。そう思い耳元から離そうとした瞬間に聞こえた、息を飲むような音。

「呉羽……?」

まさか、彼女に何かあったのだろうか。そう思い彼女の名前を呼ぶも返事は無く、布の擦れ合うような音。が、次の瞬間には呉羽の声がした。

『も……やだぁ…、』

子どもが駄々をこねるような、泣きながら発したような声。その声に再度彼女の名前を呼ぶも、電話がかかっていると本人は気付いていないのか通話状態のまま彼女の声は聞こえない。

(行ってみるか……)

幸か不幸か、顔は沖矢だから外に出ることは可能だ。幸いこの姿になってからはFBIの人間にも事実を伏せている為仕事関係で忙しいということは殆ど無い。繋がったままの携帯をとりあえずスピーカーにして車のキーを手に取った。

 + + +

持っている合鍵を使って呉羽の家に入れば、彼女はベッドの中で寝息を立てていた。その顔色は悪く、血の気がない。お腹を抑えて身体を丸めるように転がっているところを見る限り、血の気のない顔をしているのと合わせて考えると生理痛だろうか。

「呉羽、」

彼女の名前を呼びながら頭を撫でてやれば、ほんの少しだけ擦り寄るように顔が動いて一瞬だけ表情が和らぐ。銃弾による傷や骨折等の怪我類には慣れているが、さすがにこういうことの対処は詳しくない。確か、前にお腹を温めたら楽だと呉羽が言っていたことを思い出す。

(しかし、どうしたものか……)

俺自身もこの家を長く使わせてもらっていたが、さすがにカイロや湯たんぽのようなものがどこにあるかは把握していない。以前したように添い寝をして下腹部をさすってやれば幾分マシだろうか。そう思いつつ呉羽を後ろから抱きつくようにして寝っ転がる。お腹に腕を回して自身の腹を抑える彼女の手と腹部の間に手を滑り込ませてさすってやれば、若干だが彼女の身体の力が抜けたように感じた。

「代わってやれたらいいんだがな……、」

ジョディや明美から、自身の生理痛が酷いということは聞いたことはなかった。勿論、そんなことまで話すような仲だったのかと言われればまた話は変わってくるがジョディに関しては特に仕事で共にすることも多いが呉羽のように酷いようには見えない。個人差が激しいと聞いたことはあるし、何より呉羽も毎月では無い。だが、目の前でツラそうにしているのを見るだけというのも何とも言えない気持になる。

「っ、ん…………」
「呉羽?」

呉羽が小さく声を漏らして俺が動きを止めれば、呉羽からは規則正しい寝息が聞こえてくる。起きたわけではないことに安心して彼女を抱き寄せ、お腹を撫でる。顔が沖矢な以上変に触れ合うことは出来ないが、起きたときの反応が楽しみだ。そう思いながら腕の中で眠る呉羽につられるように俺も瞼を閉じた。

2017.04.03
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