Marguerite

変装をする前に

 
「……何で俺に頼むんだよ」
「だって、秀一さんには頼めないし…」
「そういうものか?」
「ん…。気持ち的に、ちょっと。やっぱり駄目…?」

コナン君に相談があるんだけど、と呼び出して家に来てもらって押し問答すること約10分。私が正座、コナン君は胡坐で座って呆れたように私を見て息を吐く。私としても無理を言っている自覚はあるけれど、やっぱりコナン君も乗り気ではないらしい。

「お前、まだ高校生だろ」
「コナン君がしてくれないなら大阪に行って服部君にでも頼むけど…」
「そこまでしてしたいのかよ…」

よっぽど呆れたのだろうか。頭を掻きながら大きく息を吐いて、意を決したのか私を見る。我ながらとんでもないことを頼む自覚はあるし、コレが良くない事だというのは分かっている。だからこそ高校生ではあるけれど見た目が小学生であるコナン君に頼んだのだ。信頼出来る、というのもあったけど。

「ホントに、俺でいいんだな」
「工藤君だから、頼んだんだよ」

私を射抜くような空色の瞳に口角を上げれば、工藤君は私の頬に触れる。痛くても、文句言うなよ。そう言って小さな手が私の頬に触れて、ぐっと顔が近づく。こうして見ると工藤君って顔整っているんだよな、なんて冷静に思いながら瞼を閉じた。

 + + +

ズキズキと数日経ってもまだ地味に痛むそこに少しだけ後悔しつつ、とうとうやっちゃったなぁ、なんてどこか他人事のように思う。学校では世間体的にもアウトだろうし髪が長いのが救いだろうか。今のところ誰にも何も言われていないからバレてはいないと思ってもいいのだろう。そんなことを考えながらも気分としてはテストが終わったから荷が下りた気持ちでいっぱいで、なおかつ秀一さんに会える。

(そういえば有希子さんってもういるのかな、)

来ることは聞いていたけれど時間とかは聞いてなかったな、と思いながら工藤邸の門を通って扉を開ける。相変わらず広いなこの家、と苦笑いをしながら靴を揃えれば、早かったな、と秀一さんの声がして、振り向けば服装こそは沖矢さんに近いけれどそこには秀一さんがいた。

「秀一さんだ……」
「あぁ。ほら、」
「ん、」

おいで、と言うように秀一さんが両手を広げて、私は迷わずそこに抱き着く。胸板に顔を埋めて息を吸えば秀一さんの匂いがして、ぎゅっと腕の力を強める。

「ふふっ、秀一さんがいるの嬉しいです」
「抱き着くだけなら沖矢でもいいだろう」
「……確かに」

パッと私が顔を上げれば秀一さんは柔らかく笑みを浮かべていて、私も嬉しくて頬を緩める。秀一さんが目の前にいる、という事実だけで、私はこんなにも幸せになれるのだから秀一さんは凄いと思う。
呉羽、と秀一さんが優しい声色で私の名前を読んで、どちらからともなくキスをする。同時に秀一さんの腕が私の背に回されて、反対の手は後頭部を押さえられて。いつのもなら恥ずかしさですぐにぎゅっと瞼を閉じるけれど、今は恥ずかしさよりも秀一さんの顔を見ていたくて唇が離れる瞬間に視線が交わって頬が紅潮するのが自分でも分かる。
はっ、と息を吐いて、秀一さんが再度私の名前を呼ぶ。それが合図かのように私が少し唇を開けば同じように秀一さんも薄く唇を開いてキスをして、ゆっくりと口内に熱が広がっていく。

「っ、ふ……んん、」

久しぶりのキスに呼吸が上手く出来なくて、くぐもった私の声が鼓膜を揺らす。ぎゅっと秀一さんの服を掴みながら自らも舌を差し出しながら口付けを受け入れる。唇が離れては塞がれて、舌が絡み合って。それは止まる術を知らないかのように激しくなっていく。

「ぁ……待っ、んん、」
「はっ……待てるか、」
「そう、だけど……っ、」

熱を帯びた、秀一さんの声。そのまま首筋に顔を埋められて、リップ音をさせながらキスをする秀一さんに静止の声をかける。煽るように私の背筋を撫でる指はどうも嫌な予感しかしない。

「……生理中、か?」
「や……それは、違います、けど……」

いいことなのか悪いことなのか、生理中ではないけれど問題はそこじゃない。むしろそれが止まるようなことをされるかもしれないことを危惧しているのだ。私が小声で避妊具は、と尋ねればフッ、と笑みを零して私の身体を抱え上げる。

「そんなことを気にしてたのか」
「そんなことって……!私、一応高校生なんですよ……?」
「安心しろ。この前、薬局に行っただろう」

薬局。その言葉に私の動きが止まる。確かに少し前に沖矢さんと薬局には行った。買い忘れがある、というようなニュアンスだったけどなるほどそういうことか。嘘でしょ、と小さく呟くも秀一さんは上機嫌で無いのに抱けるわけないだろう、とさも当たり前のように言った。以前避妊具が無くて手を出されたことを私は忘れてないのだけれども。

「用意周到……」
「備えがあれば憂いなしと言うだろう」
「むぅ……」

私を抱えたまま2階へと向かう秀一さんは恐らくはそのつもりだったのだろう。昼間の明るい時間から、なんて中々そういう雰囲気になったことはないし何より少しばかり恥じらいがあるのだけれど同時に今更だらうか、なんてことも思えてくる。

「会う度に抱くと、身体目当てだと言われそうだな」
「言った方がいいんですか」
「生憎身体目当てじゃないが……まぁ、でも呉羽は抱いてて飽きん 」
「素直に喜べない……」

喜んだ方がいいのか、悲しんだ方がいいのか。沖矢さんが普段使ってるのであろう部屋に通されて、ベッドの上に置かれる。まだ私物はあまり置かれていなくてどこか殺風景な部屋だな、なんて思っていると秀一さんは当たり前のように私に覆いかぶさった。

「や、やっぱりするんですか……」
「お預けが出来ない男は嫌か?」
「……好きですよ」

ぽつりと私が言葉を漏らせば、秀一さんは笑みを浮かべて私にキスをする。人様の家になるわけだけれど、本当にいいのだろうか。そんなことを考えるよりも先に、私は熱を与えられ始めた。

2017.07.22
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