「今日は夜まで赤井さんのままなんですか?」
「一応、もう少ししたら沖矢に戻る予定だ。何があるか分からんからな」
「じゃあ、今の内に秀一さん補給しておきます」
秀一さんに組み敷かれて、そういうことをして。本当はシャワーでも浴びさえてもらいたいところだけれど今もし人が来たら秀一さん出れないな、と思って制服を着る。まぁ真夏じゃないし大丈夫だろう。多分。
秀一さんの脚の間に移動して向かい合ったまま膝立ちになって、そのまま抱き着く。ベッドに座っている秀一さんに向かって膝立ちになっているから秀一さんの顔は胸元にあって、秀一さんも私に甘えるように腕を回して口角を上げる。
「私やっぱり秀一さん好きだなぁ」
「それは嬉しいものだな」
「ふふふっ。沖矢さんも、嫌いじゃないんですけどね」
「ホー……」
どさり、と突然視界が反転して、秀一さんと天井だけの視界に変わる。少し口角を上げてられている秀一さんはいたずらっ子のようだ。そのまま私の横に肘を付いて額にキスを落として、ただ触れるだけのキスをする。
「俺といるときに、別の男の名前を出すのか」
「秀一さんのヤキモチ焼き」
「呉羽にいつか愛想を尽かされるんじゃないかと不安なんだ」
「思ってないくせに」
「いや、思っているさ。俺より年が近くて話が合う男はごまんといるだろう?」
「秀一さんにだって、年が近くて話の合う女性ぐらいいるでしょう」
それこそジョディさんとか、なんて思うけれど言わないでおく。中身は私の方が年上だし。さて何て返ってくるかな、なんて思いながら秀一さんを見れば秀一さんは口角を上げて私の首元に顔を埋める。
「My sweet honey.」
「え、」
「can't stop touching.」
「ちょっ、待っ……!」
耳元で流暢に囁かれて、頬に熱が集まる。普段日本語だと絶対にそういうことを言わないくせに、何で英語だとこんなにも饒舌になるのか。ちゅ、ちゅ、と私の頬や額、唇に触れるだけのキスを何度もして、恐らくは甘ったるいのであろう言葉を私に囁いていく。英語で言われると私が理解するよりも先に次の言葉を囁かれるから、なんとなくこういう言葉なのだろう、ということしか分からないのが悲しいところだ。多分、それを分かっているからこそ饒舌になるのだろうけれど。
「っ、待って、触るのは駄目、」
「……沖矢になったら駄目なんだろう」
「た、楽しみは後に取ってた方が美味しいじゃないですか……!」
「…………一理あるな」
暫しの間の後、秀一さんが納得したようにぽつりと漏らす。待った、これは地雷ぶち抜いたかもしれない。そう思うけれども後の祭り。アッサリと私の上から退いて身支度をする秀一さんはどこか上機嫌だ。多分、次に元に戻るときが私の命日だ。いろんな意味で。
「まぁ、どっちにしろいい加減沖矢にならないといけなかったしな」
「結構いい時間ですね……。お昼どうします?」
「今から作るのも面倒だろう。外にでも行くか」
「そうですねー……」
秀一さんが触れるだけのキスをして、俺がいなくても浮気するなよ、と本気なのか冗談なのか分かり難い言葉を残して部屋を後にする。おそらくはそのまま沖矢さんになるつもりなのだろう。
「ホント心臓に悪い……」
赤くなった頬を両手で抑えて、小さく呟く。ベッドの上で英語で口説いてくるなんて、どこの映画の世界だ。赤井秀一という男は私が想像しているよりもずっと熱い男だったんだな、と息を吐いた。
+ + +
一通りの身支度を整えて背伸びをする。いっそ私の服も何着かここに置いておこうか、なんて沖矢さんの服が置かれているクローゼットを見ながら思う。どうしても変声機を隠す必要がある為ハイネックばかりになってしまう服のラインナップはまだ少なく、それこそ私の服を何着か置いても余裕はある。しかしただ兄の友人というだけの人が借りている家に私の服を置くのは如何なものか。今さらな気もするけど。
(さすがにもう変装終わったかな)
1時間は経っているし、大丈夫だろう。沖矢さんの部屋から出て階段を降りようとした瞬間、お風呂場の方から派手な物音がした。まさか何かあったのだろうか、とバタバタと慌ただしくお風呂場へ行けば、そこにいたのは倒れている沖矢さんと言葉は悪いがそれの原因となったであろう毛利さん、そしていい気味だというような視線を向けた鈴木さん。それを見た瞬間に何があったのかを理解した私は頭を抱えた。
2017.07.31
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