工藤君が、学校を休んだ。風邪とかではなくて、無断欠席らしい。家に連絡しても連絡が取れないらしく、毛利さんが言うには何か事件があって暫く帰れそうにない、とのこと。一瞬何かあったのか、とか考えたけれどよく考えたらこの状態は原作が始まったということだろう。ちょっと前に毛利さん、空手の都大会で優勝してたし。
とうとう原作始まったってことは工藤君は既にコナン君なわけで。今は毛利さんのところに居候中ということだ。
(そういえば彼に本借りてるんだっけ……)
読み終えて、近いうちに持って来ようと思っていた本がある。正直原作がそろそろ始まるということを失念していたから油断していた。本をどうすればいいのか、とりあえず工藤君にメールを出すことにしよう。
毛利さんに預けるようにするか、それとも"コナン"の姿で現れるか…。出来れば後者の方がありがたいと思いながら私は携帯を取り出した。
+ + +
放課後。工藤君からメールは来ていなかった。今借りているのはただの推理小説で優作さんのものではないし、急ぎということはないだろう。とりあえずメールが来てから考えようと私が学校の外に出たときだった。
「ねぇ、呉羽姉ちゃん…だよね?」
「え……」
明らかに高校生のものではない幼い声。それは、小さくなった工藤君の声。まさかすぐに現れると思っていなかった私は彼のその姿を見て、思わず固まった。
「新一兄ちゃんに頼まれたんだ!呉羽姉ちゃんにコレ渡してくれって」
コナンになってまだ日が浅いだろうになかなかの役者。さすが女優の息子といったところだろうか。今目の前にいる彼は小学1年生で初対面、ということを頭に入れつつ私は彼と視線を合わせるために少し屈む。
目の前の少年がポケットから取り出したものは、家の鍵だった。
「コレ、工藤君から預かったの?」
「うん!呉羽姉ちゃん、新一兄ちゃんのお家の本借りてるんでしょ?鍵を渡しておくからいつでも好きなときに好きな本持って行ったらいいって!」
「好きなとき、に…?」
確かに工藤君はいつでも帰れるわけだし何か変なことがあればすぐに気付くだろう。でも、表向きは暫く帰れないということになっているのにそれで大丈夫なのだろうか…。ただのクラスメイトにホイホイ鍵を渡していいものなのか。信用されていると言われたらそれまでだが探偵なのだからもう少し周りを疑おうよ工藤君。
鍵を見せるも受け取ろうとしない私を見た目の前の少年は、首を傾げる。……可愛いなんて思ってないんだからね。可愛いけど。
「呉羽姉ちゃん?」
「あ、ゴメンね?何かただのクラスメイトに鍵預けたりして大丈夫なのかなって思って…」
「大丈夫って言ってたよ!呉羽姉ちゃんのことは信用してるし絶対に悪い人じゃないからって」
「買いかぶりすぎな気もするけどなぁ…」
貴方が知らないだけで私結構悪いことしてますよ、と心の中で思いながら息を吐いた。ここで受け取る受け取らないのやりとりをしても意味はないだろう。恐らく毛利さんも合鍵は貰ってるだろうしおあいこ。というか私は本を借りに行くだけなのだから掃除なども頼まれる彼女のほうが信用も信頼もされているだろう。大丈夫だ、まだ私と彼にフラグが立つようなことはしていないはず。
「わざわざ君が高校まで来てくれたんだから、受け取らないと悪いから受け取ることにするね?」
「ううん、むしろ僕が行くって言ったから。あと、電話にはなかなか出られないけどメールなら返信出来るから何か気になるようなことあったら連絡してって」
「そう、ありがとう」
私は工藤君の家の合鍵を受け取り、とりあえず財布に仕舞う。無くさないようにキーホルダーか何かをつけたほうがいいかもしれない。いっそキーケースでも買ってしまおうか。
そういえば、得意気に笑う彼の名前を聞いていなかった。このままでは私の方がいつかボロが出そうだ。今のうちに名前を聞いておいた方がいいだろう。
「ところで、お届け物をしてくれた君の名前を教えて貰ってもいいかな?」
「僕?僕はコナン、江戸川コナン」
「コナン君、ね。もしコナン君が工藤君に会うことがあったら、伝言を頼んでもいいかな?」
「うん、いいよ?」
一瞬、赤井さんのときのように牽制とも取れる言葉を言おうと思ったけれど、さすがに今は自分のことで手一杯だろう。私もそこまで鬼ではないつもりだ。
今の私が彼に思うことは、ただひとつ。
「人が人を殺す理由を納得しろなんて言わない。けど…否定、しないであげて」
「え……」
「あは、ゴメン、意味分かんないよね。面倒だったら伝えなくてもいいよ」
「ううん、ちゃんと伝えるよ」
「……そっか」
10億円強奪事件を思い浮かべて、思わず拳を握る。妹を組織から抜けださせるために犯罪を犯した彼女。組織から抜けだそうとして、組織はその約束を裏切り彼女は殺されることになる。とても、可哀想な人。同情なんかじゃなくて、どうして彼女がこうならなければならなかったのかと思う。
でも、妹を組織から抜けださせるためとはいえ彼女の罪はとても重い。もし私が救うことが出来ても、逮捕されてしまうのは間違いないだろう。それでも、自分を犠牲にしても救いたかったのだと思うと、私は彼女を救いたいと思う。所詮は、私のエゴでしかないのだけれど。
「呉羽姉ちゃん、大丈夫…?」
不安げに私を見上げるコナン君。私はコナン君の頭を撫でて、口を開いた。
「またね、コナン君」
私は、上手く笑えていたのだろうか。
2014.06.23
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