Marguerite

複数の紙飛行機

 
「別の種類の紙飛行機?それとは違う模様のを?」
「ええ…。確かニュースでは、バラまかれた紙飛行機が一昨日と昨日の朝に都内で100機近く回収されたと報道していたかと…」

紙飛行機に視線を向けたまま沖矢さんが鈴木さんと話すのを見ながら、持ってきていたタブレット端末でニュースを開けば確かに沖矢さんが述べたような内容が書かれている。どうにも私自身秀一さんが家にいなくなってからはもともと見ることが少なかったテレビを余計に見なくなった気がする。その代わりに電話をしているのだけれど。誰とは言わなけれど。

「ちなみに、この紙飛行機はいつ君の家の庭に?」
「見つけたのは一昨日の朝だけど…その前に教えてくれる?どーしてその紙飛行機がSOSなの?」
「機体に書いてある模様ですよ…。ホラ、丸の大きさは表も裏も…ほぼ一緒で…棒の長さは3本とも丸3個分…」

沖矢さんは手に持っていた紙飛行機を立てに持ち替えて鈴木さんに表の丸を見せ、次に裏側にクルリと返して丸と棒を見せる。次にそれを開いて見せれば丸、棒、丸とならんだものが3つ並んでいるものが描かれていて、何かの暗号みたいと言った沖矢さんはモールス信号の説明を述べる。私がこういうの、と鈴木さんにタブレット端末でモールス信号一覧表を見せればそういえば見たことある、と独り言のように呟いた。
淡々と鈴木さんの横で説明をする沖矢さんを視界の隅に捉えつつ毛利さんを見れば、自身の携帯を開いていた。恐らくは工藤くんからのメールだろう。

「つまり…SOS!!救助を求めるための遭難信号になるってわけさ!」
「え?」
「ってメールに書いてあるんだけど…」
「何やってんのあの人…」

タイミング良すぎるわ。今工藤君って授業中じゃなかったっけ。少しだけ瞼を細めながら思うけど帝丹小学校はその辺り緩いような気がする。お約束、というやつかもしれないけれど。

「そういえばここの家主の名前も…新一でしたよね?」
「家主っていうか家主の息子さんですよね。家主は優作さんじゃないですか」
「その彼にも相談しているんですか?」
「あ、知りません?高校生で探偵やってる新…」
「き、金一です!」

クラスで推理好きの金一って男の子がいて、と必死に誤魔化す毛利さんを見て苦笑いをする。私と沖矢さんで工藤君の話をすることはまず無いし話題にコナン君が出てきてもそれがイコールであると私の口からは言っていないので一応イコールでないと思っているはずだ。まだ。

(というか金一って金田一一みたいだな)

ジッチャンの名にかけてよろしく某探偵漫画の主人公である。今思えばトリップしたのがそっちじゃなくてよかったと心底思う。あっちは主人公と同じ学校の人間だって普通に死ぬし何なら親友だって死ぬ辺り死亡フラグが怖すぎる。

(明智さん、好きだったなぁ……)

こっちだと20代女子は大体赤井さんか安室さんが好きな人が多かったような気がするけれど向こうなら明智さんか高遠さんといったところだろうか。ここで高遠さんを選ばない辺り私多分胡散臭い人が苦手なのだと思う。分かってたけど。

「片付けっていえばさっき寄ったWBの店員さんも、『看板にひっかかってる紙飛行機を片付けておいてくれ』って店長に言われてたよね?」
「じゃあすぐ取りに行こ!」
「あ、ちょっ…」

ふ、と意識を三人の方に戻すと、少し焦った様子を見せる毛利さんに手を引かれて鈴木さんが工藤邸を出て行ってしまった。確かに事件の鍵となる紙飛行機が捨てられてしまっては困るので正しい選択かもしれないけれど、置き去りになってしまっている鞄を見て小さく息を吐く。貴重品も入ってるであろうだけに鞄は持っていてほしい気持ちだ。

「で、何を考えていたんですか?」
「JKときゃっきゃする沖矢さん犯罪臭やばいなって」
「ホー……?」
「嘘ですけど」
「でしょうね」

呆れたように沖矢さんが息を吐いて私の頭を撫でながら、お昼食べ損ねましたね、と思い出したかのように言った。戻るまでに何か食べますか、と沖矢さんに尋ねれば興味は食欲よりも謎に向いているらしく今はいいとのことなので特にすることも無い私はソファーに座る。いっそここで寝たい。

「眠いでしょう。寝ててもいいですよ」
「他人の家で眠りこけるJKってやばくないですか」
「セックスしてることの方が、やばそう、ですけどね」
「それ沖矢さんが言います!?」

ソファーにあったクッションを握りしめて頬を膨らませる。人様の家だというのに襲ってくるのは秀一さんである。私自身、秀一さんが普段家にいない自分の家で抱かれたら寂しさでいっぱいになりそうだからどちらかといえば自分の家以外の方がありがたいのは確かなのだけれど、さすがに同級生の家はどうなのかと思わなくない。有希子さんは『秀ちゃんと何しても気にしないわよ』なんて含みある言い方をされてしまったのは事実なのだけれどもそういう問題ではない。

「その話は置いておくとして、戻ってくるまではどうにもできませんし彼女らが戻るのを待ちましょうか」
「あ、金一くんには突っ込まないんですね」
「聞いてほしかったんですか?」
「遠慮しておきまーす」

隣に座った沖矢に寄り掛かって、猫を甘やかすように片手間に撫でる沖矢さんに頬を緩ませる。毛利さんと鈴木さんが戻ってくるまではとりあえずこの人に甘えておくことにしようと思った。

2018.3.6
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