Marguerite

匂いさえも愛おしい

*高校三年生冬休み辺り

数週間前に秀一さんから冬休みはそっちに行けそうにないと連絡を貰った。私が冬休みになる期間に合わせて休みを取っていたけれど、仕事の方が手が回らずどうにも休みが取れないとのことだった。日本にいるけれど秀一さんがいることもあってそっちの事件関係はいろいろ見てるだけにまぁ仕方ないかぁという感想だった。そして同時に思ったのだ。秀一さんが来れないのなら行けばいいのでは、と。
そんなこんなでアメリカにある秀一さんの家に着いて、貰っていた合鍵を使って家の中に入ってまず思った。本当に忙しかったんだなぁ、と。

「散らかり放題散らかってる……」

ホントに寝に帰るだけの生活だったのだろうか。以前来たときはキチンと整理されていたのに今は乱雑に物が散らばっている。まぁ男の人の一人暮らしだから余計にかもしれないけれど。

(とりあえず軽く片づけて行きますかね)

持ってきた自分のキャリーはとりあえず寝室に入れた。寝室もまぁ乱雑していたけれどまず手を付けるならリビング辺りからだろうか。学校が終わってほぼそのままアメリカに向かったせいで今は夜中なのだけれど飛行機の中でたっぷり睡眠を取ったので眠気は無い。一気に片付けていくか、と腕まくりをして意気込んだ。

 + + +

乱雑に散らばっているものたちを分かる範囲で片付けて、普段秀一さんが使っているベッドに潜り込んで暇つぶし用に持って来たゲームをする。時々枕に顔を埋めて秀一さんの匂いを堪能しているのは我ながら変態臭いと思ったけれど仕方ない。もう外は日が出ているけれど秀一さんが帰ってくるのはいつになるだろうか。そもそも来ることを一言も伝えずに弾丸で国境超えてみたからいろいろと不安は大きいのだけれど。
そんなことを考えていると玄関から物音がして、ゲームをスリープモードにして布団から出る。秀一さんの足音が力ないなぁと思いながら背伸びをして息を吐くのと同時に、バタバタと秀一さんの足音が荒っぽくなって近付いてくる。その音にビクリと肩が跳ねた次の瞬間、バンッ、と荒々しい音を立てて寝室の扉が開かれた。

「お、お疲れ様でした……?」
「…………呉羽?」
「です」

私の姿を見て、秀一さんが声を絞り出すようにして名前を呼んだ。思わず両手を上げて答えつつ秀一さんを見上げれば、本当に忙しかったんだろうな、と思えたのは普段だとあまり見ることのない無精髭があるからだろうか。特別体毛が濃いわけではないみたいだから夜から朝方にしか見ないだけに新鮮だ。
秀一さんは本当に私がいるのかを確認するようにまじまじと凝視して、ハッ、と息を吐いて私の腕を掴んで引き寄せて抱きしめられる。首筋に顔を埋められて、少しだけ当たる髭がチクチクとするのはこの際見逃しておくことにしよう。

「呉羽、だな、」
「ですよー。今日も今からお仕事ですか?」
「いや…予想よりもかなり早く片付いたし周りも日本に行くつもりなのは知ってたからな。早めの休暇になった」
「ありゃ、じゃあ秀一さん日付ずらせば日本行けそうだった感じですね?」
「まぁ、昨日の時点ではまだどうなるか分からないことろがあったし…来てくれて嬉しいさ」

秀一さんの腕の力が緩められて解放されるのかと思いきや少し緩められただけで腰にある腕はそのままだ。じっと私の顔を見る秀一さんを不思議に思い首を傾げれば、彼は口元に孤を描きながら自身の額と私の額をくっ付ける。

「サプライズもいいものだな、」
「びっくりしました?」
「あぁ。まさか来るとは思ってなかったぞ」
「秀一さんに会いたかったので」
「ホー……」

ひょい、と秀一さんは軽々と私の身体を抱き上げて、触れるだけのキスを繰り返しながら部屋の奥へと脚を進める。寝室であるこの部屋の奥にあるものなんてひとつしかなくて、私の想像通り私の身体はベッドへと沈む。

「……先にシャワーだけでも浴びた方がいいな、」
「別に、そのままでもいいですけど……」

私に覆いかぶさっていたけれど離れようとした秀一さんの服を掴んで、視線を逸らしながら告げる。夜にするときは多少の無精髭があることは今まであったけれどここまであるのを見るのは新鮮だ。それに、髭を剃っていないところを見ると元々家でお風呂に入るつもりだったのだろう。いつもより少しだけ強い体臭が、心地いい。

「汗臭いぞ」
「秀一さんの匂いがするの、好きですよ」
「ホー…それは光栄だな」

服を掴んでいた手を取られて指を絡められ、そのまま覆い被さって唇を重ねる。反対の手で秀一さんの頬に触れればいつもは無い無精髭があって、その姿にもときめいてしまうのだから末期だなぁと頬を緩めた。

2017.12.26
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