沖矢さんと食事を済ませた後。ゆったりとした時間の中でテレビからニュースが流れてくる。行方不明となっていた代田社長が見つかった、という報道は淡々とその経緯を述べていた。ソファーに座りそのニュースを眺めていると、後ろに気配を感じて視線をそちらに向ける。
「どうやら無事に解決したみたいですね」
「うわぁ白々しい」
ピッ、とリモコンを使ってテレビを消して後ろから声をかけてきた沖矢さんへと言えば特に何を言うでもなく私にホットココアを差し出す。有り難く受け取ってそれを飲めば彼は私の座る隣へと腰を下ろし、それと同時にコーヒーの匂いが鼻を掠めて彼の持つコップにはコーヒーが入ってることを察する。いわゆる食後のコーヒーということであろう。
「テストの出来はどうだったんですか?」
「平均以上は取れてると思いますよ」
「返却が楽しみですね」
「え、見るんですか?」
「家庭教師としては見ないといけないでしょう」
「……保健体育の?」
わりと真面目に出てきた言葉に、隣に座る沖矢さんが咽る。過度なスキンシップは御法度だと言うにも関わらず工藤邸の中であることをいいことに変声機のスイッチを切って後ろから私に触れてくることが多いだけに結構本心である。確かに顔が見えなければ秀一さんなのだけれど私は目隠しプレイを許可した覚えは無い。
「保健体育、受けたいんですか?」
「何か沖矢さんが言うとガチっぽいですね」
「俺ならいいのか」
「隅々まで知ってて何を今さら」
変声機のスイッチが聞こえて、心地のいい秀一さんの声が私の鼓膜を揺らす。顔は沖矢さんのままだから知人としての距離を埋めることはないのだけれど、相手はそんなつもりが無いのか私の髪を梳いて遊ぶ。これが秀一さんだったならば私も戯れるのだけれど。
「呉羽は沖矢に対して辛辣だな」
「顔は好きなんですけど何だろう、やっぱり秀一さんの方が好きです」
「ホー……」
「え」
隣に座る沖矢さんが笑みを浮かべて、そのまま手で私の目元を覆い隠す。カップを取られて、コトリと目の前のテーブルに置く音がして。彼が目元を覆い隠す理由なんて、ひとつしかない。そのまま反対の手で顎を持ち上げられて、唇を塞がれた。
(食べられちゃう、)
すとん、と私の身体はいとも簡単にソファーへと押し倒される。真っ暗な視界の中で貪られるソレにはもう慣れたもので、こうされると私も簡単に許してしまうのは、私が秀一さんに甘い証拠だ。真っ暗な視界のまま塞がれる唇の感触に身を委ねた。
+ + +
軽く背伸びをして、息を吐く。さすがにキス以上のことはしなかったもののまだ続けるのか、というぐらいにキスの嵐だった。それ故に唇が腫れてしまいマスク生活である。なお秀一さんには暫く触れるの禁止令が出された。効果があるかは知らないけど。多分無い。
「あれ、呉羽風邪?」
「んー。結局あの後工藤君の家で本読みながら寝落ちしちゃって身体冷やしたかも」
「泊まったの?」
「まさかー。20時ぐらいに起こされて帰ったよ」
私を見るなりマスクを付けている姿を不思議に思ったのか毛利さんに声をかけられてへらりと笑って言葉を返す。何度か泊まったことはあるのだけれど一応昨日は帰らせていただいた。というか仮に泊まったとしても毛利さんの好きな人の家に泊まったというのは申し訳無さすぎるので伏せておくけれど。実際秀一さんのせいで泊まることになったことは何度かある。
「にしても呉羽も本読みながら寝たりするんだ……」
「テスト勉強してたりして最近寝るの遅かったりから多分そのせいだと思うよ。ダメだねあそこは本の誘惑が多い」
「またそうやって新一みたいなことしてるんだから」
「私いつかあそこの本を読み尽くすんだ……」
呆れたように頭を抱える毛利さんを見ながら、願望を呟く。あそこにある本の量は凄まじくて、読み尽くそうと思うとかなりの年月がかかるだろう。あまり現実的ではないけれど、本を読むのが好きな人間としては読み尽くしたい願望はある。もっとも、秀一さんがあの家にいる限り厳しそうだけれど。
風邪ひき始めてるならネギたっぷり入れたスープがいいよ、と耳寄りな情報を教えてもらい、そのレシピをメモさせてもらう。そんな話をしていると鈴木さんが現れて、気付けば日常へと溶け込んでいった。
2018.12.23
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