「その前に妹よ!!約束したはずよ!この仕事が終わったら、私と妹を組織から抜けさせてくれるって…」
原作で何度も読んだシーンが、目の前で繰り広げられている。コンテナの影から、明美さんとジン、ウォッカが話している様子を伺う。明美さんが私の方に背中を向けていて、私がヘマをすればジンやウォッカに気付かれる可能性がある。慎重に、彼らの言葉に耳を傾ける。
(大丈夫、チャンスはまだある…)
赤井さんとの約束がある以上、なんとかしてこのシーンを事前に回避したかった。けれどもうここまで来てしまった以上形振り構ってなんかいられない。
意識を明美さんたちのほうに集中させる。多分、もうすぐだ。
「最後のチャンスだ…。金のありかをいえ…」
「あまいわね…。私を殺せば、永遠にわからなくなるわよ…」
二人の声が聞こえた。次、だ。次にジンが言葉を発した瞬間が正念場。いつでも走り出せるように、覚悟を決める。
「それにいっただろ?最後のチャンスだと…」
最後にもう一度携帯を握り締めて、私は明美さんの前へと駆け出す。
船の音に紛れて、聞きなれない銃声が響いた。
「っ、貴方、………」
抱きつくような形で、明美さんを銃弾から庇う。突然現れた人間に、どうやらジンたちも驚きを隠せないようで。明美さん共々派手にこけ、私は下からそんな彼らを見上げる。
「チッ……」
ジンは不機嫌そうに舌打ちをし、彼は見られたからには容赦しないとばかりに明美さんと彼との間にいる私に銃口を突きつける。銃弾を掠めた腕は熱を持ち、痛いというよりは熱い。明美さんも私の腕を引いて止血を試みようとしてくれている。けれど、そんな彼女に構っている余裕なんか無くて。
ここで私が黙っていれば、彼はそのまま銃口を引くのだろう。まるで私が明美さんの自殺を止めようとして巻き添えになったかのように見せて。でも、こっちにも考えがある。
「……撃ちたいなら、撃てばいい」
「何…?」
「私は、貴方達の目的を知ってる。貴方達の組織が何をしようとしているのかも」
銃弾を掠めてすぐよりも徐々に熱を持ち始める左腕を抑えながら、彼を見る。眉根を寄せて、その姿は私が何を言いたいか探っているようにも見えた。
焦ったら、きっと目の前の彼にはハッタリだってバレてしまう。
私は無理矢理口元に弧を描いて、口を開く。
「簡単に組織の…貴方のものになるつもりはないけれど、私なら、貴方達が作ろうとしている薬の完成品だって作れる」
「……面白れェ」
ニヤリ、と笑ったジンは私の腕を引いて引き寄せる。そのまま腰を引かれ、彼の胸に飛び込む形になる。
「組織の秘密を知ってるってことか」
「……そうね。今貴方達がいる組織が開発している、体内から毒が残ることがない毒薬…。あくまで試作品で完璧じゃない。何年もかけて組織が作っている薬が私の手で、完成するかもしれないわ」
ジンたちにはAPTX4869は毒薬として知らされていたはず。ハッタリなんて言ってなんぼだ。ここにいる私は部外者で、本来なら関わることのない人物。もし私がここで死んで私自身が元の世界に帰るのかそれとも向こうの世界でも死んだことになるかはわからないけれど、この世界ではむしろ好都合になるはず。
自身の血に塗れた右手で、彼の胸元を掴んだ。
「……気に入った」
ジンは私に目をつけたようで、私の顔を持ち上げる。そのまま顔を近づけて身構えた瞬間。
「え……?」
鳴り響いた銃声の音。それはジンの持っている銃からで。撃たれたのは、私ではなくて。
「明美、さん……?」
目の前で、明美さんが崩れ落ちる。その姿はまるで動画をスロー再生でもしているようで。
倒れていく彼女に手を伸ばそうとしたけれど、それはジンによって阻まれた。
「っ…離して!」
「…ウォッカ」
「へい」
ジンは私の腕を掴んだまま、ジンにその場の細工をさせる。まるで、明美さんがこの場で拳銃自殺をしたかのように。
私はどうにかジンの腕から逃れようともがいてはみるものの、力の差で容赦なくねじ伏せられる。このまま諦めて連れて行かれた方がいいのか…。でも、連れて行かれたら嘘がバレてしまう。私がどうしたものか、と思ったとき。
場違いな音で、私の携帯電話が鳴った。
2014.07.24
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