Marguerite

掴んで消えた

 
私の携帯の着信音に、この場の全員の動きが止まった。その瞬間にジンの腕を振り払って明美さんの元へと走る。

「チッ……」

後ろでジンの舌打ちが聞こえてきたけれど、構ってなんかいられない。いっそ赤井さんに截拳道を習ったのだからそれを使えばよかった、なんて頭の片隅で思ったけれどどうも咄嗟の時には出てこないらしい。
明美さんは血まみれではあるけれど、まだ呼吸があった。何か止血するもの、とハンカチを取り出す。内蔵も損傷しているであろうこの状態でどこまで効果があるかはわからないけれど、しないよりはずっとマシだ。傷口にハンカチを当て、そのまま彼女の傷口を掌で圧迫する。

「お願い、止まって…!」

ジンが私を捕らえようとこちらに近づいて来たけれど、遠くから足音が聞こえてきた。それを聞いたジンたちは諦めたようでいなくなった。
とにかく、私が彼らに捕らえられる心配はなくなった。あとは彼女の止血に専念するのみ。

「もう、間に合わないわよ…」
「何で、そんなこと言うんですか!貴方は、生きなきゃいけないの!生きて、あの人に会ってっ…」

止血しようとしているのに、血は止まらなくて。明美さんは止血をする私の手を振り払うようにして大丈夫という。けれど、全然大丈夫なんかじゃない。血は溢れるように出てきて流れていく。
遠くから聞こえてきていた足音が、とうとう目の前まで現れた。

「ま、雅美さん!?」

ホテルから追ってきたであろう、コナン君と毛利さん。二人は一斉に明美さん…否、雅美さんに駆け寄る。

「どうしたの雅美さん、しっかりして」
「!?」
「お願い毛利さん、救急車!」
「わ、分かった!」

コナン君はすぐに拳銃に気付いたようで、疑うように私の顔を見る。何かを、知っているんじゃないかと。けれど、私も彼に何かしらを話すことなんて出来ないわけで。
けれど今はそんな場合じゃないと思ったらしく、すぐに私に向かって口を開く。

「呉羽お姉ちゃんお願い!警察も!」
「え、あ、うん!」

コナン君は的確に私をこの場から引き離す。少しコナン君たちから離れて、携帯を取り出す。いつの間に止まっていた着信の名前を見てやっぱり、と思いつつ今はそんな場合じゃないと警察を呼ぶ。確か近場にいたような気もするけれど、追加で呼んでも問題はないだろう。
所在地等を告げる電話が終わって、すぐにコナン君たちの元へと戻る。どうやら10億円の在処を告げたようで、彼女は私を見た。

「あの人を、お願いね…?感情表現とか、上手い人じゃないから…」

私の手を握って、彼女がそう言うのと同時にぱたりと彼女の手が床に落ちた。それが意味することはたった一つで。まだ温もりのある彼女の手を取って、握りしめる。

走ってきた毛利さんの足音が、どこか遠くから聞こえたような気がした。
 
2014.07.27
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