Marguerite

ひとつの終焉と足音

 
明美さんが救急車で運ばれる。呆然とそれを眺めていると、横からコナン君が私の腕を引いた。

「呉羽姉ちゃんも、乗ったほうがいいよ。腕、怪我してるんでしょ?」
「…大丈夫だよ、かすり傷だから」

一度は血が止まらなかったけれど、今はもう溢れるようには出ていない。自分自身の目で確認していないので傷口がどの程度のものなのかはわからないけれど、多分大丈夫だろう。
現場の空気はとても重苦しくて。どうやってこの場から去ろうかと考えていたら、再び私の携帯が鳴りだした。先程鳴りっぱなしで放っていたからか、再度かけてきたのだろう。私のことを不安げに見上げるコナン君に少し話すだけだから、と言ってコンテナ同士の間に入る。
携帯の画面に表示された名前に安心感を抱えながら、通話ボタンを押した。

『…呉羽、』
「赤井さぁん……」

優しく呼ばれるその声に、我ながら情けない声を出したものだと思う。けれど、それぐらい赤井さんの声は私を安心させてくれて。人前、ということもあって我慢していた気持ちが、一気に溢れだして再度私の頬を濡らす。

『あまり、大丈夫そうじゃないな』
「ごめん、なさい…」

誰に対しての謝罪なのか、自分にもわからなくて。なさけない声でただひたすらに謝罪の言葉を紡ぐ。
ズルズルと力が抜けたようにその場に座り込んで、赤井さんと話す。自分でも何を言っているのかわからなくなるぐらい滅裂で、それでも赤井さんは電話を切らずにいてくれて。時折短く相槌を入れつつ、ただ私の言葉に耳を傾けていてくれた。

「…今、すごく赤井さんに会いたいです」

ぽつりと私の口から零れた言葉。赤井さんに会ってないのは数日なのに、とても長い間会っていないように感じる。依存していたのは、自分のほうだ。
赤井さんからの返事はなくて、引かれちゃったかな、なんて嫌な方向に考えたとき。赤井さんが電話の向こうで小さく息を吐いたのが聞こえた。ビクリ、と自分の体が強張る。


『「そういうだろうと、思ったよ」』


受話器の声と現実の声が、重なって聞こえた。声がした方を見れば、口元に弧を描いた赤井さんが立っていた。どうやってここに来たのとか、ここにはまだ警察がいるのに、とか。疑問は出てくるのに言葉は出てこなくて。

「何、で……」

赤井さんは私との通話を切って、携帯をポケットに仕舞う。そして私と視線を合わせるようにしゃがみ込む。

「…怪我、したのか」
「あは、ちょっと銃弾掠めちゃった」

誤魔化すように無理矢理笑って言えば、赤井さんは私の頬を両手で包む。涙を拭われ、ジッと私を見る。

「他に、怪我は?」
「特に無いですよ。大丈夫です」
「……そうか」

頬に触れる手を離してそのまま何をするのかと思いきや、彼はそのまま腕の中に私を閉じ込める。しっかりと私の腕を庇いながら、かつ強く抱きしめる。
赤井さんの匂い、だ。とても安心できる、落ち着く匂い。また涙が溢れそうなのを我慢しながら、赤井さんにしがみつく。私がしがみついたことに気づくと、赤井さんは私の顔をのぞき込んだ。

「ジンに、会ったのか」
「…見たん、ですか?」
「……勘、ということにしておこう。会わせたくは、なかったんだがな」

くしゃり、と私の頭を撫でて赤井さんは私の瞼に口付ける。今日見たものを、忘れろというように。両の瞼に口付けて、一度笑った後に私を胸板に押し付けた。

「その行動力には、尊敬出来るものがあるな」
「すみません…」

ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でながら赤井さんは呟いた。私は赤井さんにしがみついたままで。暫く無言になったと思ったときに赤井さんが言いにくそうに口を開いた。

「……呉羽」
「はい?」
「俺に付いて来る、覚悟はあるか?」


上を見上げても、赤井さんは真っ直ぐと先にある"彼女"の血溜まりを見ていて。私は強く赤井さんの服を握りしめた。
 
2014.08.02
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