赤井さんに連れていかれた事務所を後にしてから、少しずつ雨が降り始めて。私が港に着く頃にはそれなりの量になっていた。
(頭を冷やすのには、丁度良かったかな…)
置き去りになっていたバイクに跨がり、エンジンをかける。そのままバイクを走らせ、家へと急ぐ。
家に着く頃には全身びしょ濡れになっていて、玄関で全て服を脱いでそのまま洗濯機に放り込む。そのままシャワーからお湯を出して、頭から被りながら湯船にお湯を溜めていく。冷えた身体を、湯船に少しずつ溜まっていくお湯が温めていく。
「はぁ……」
無意識に零れたため息が、浴室に響いた。考えるのは、赤井さんから言われた話のこと。
証人保護プログラムを、考えなかったわけじゃない。いつかそういう話が来るだろうと思っていたし、覚悟していたつもりだった。
……つもり、だったんだ。
多分、コレがジョディさんや会ったことはないけれどジェームズさんだったらここまで悩んだりしなかったのだろう。けれど、まさか赤井さんから言われるなんて考えていなかった。
(あ、ちょっと泣きそう……)
約一年間、赤井さんの近くにいた。自身の妹と同い年で、放っておけなかっただけなのかもしれない。それでも、私からしたら赤井さんはこの世界で唯一頼れる人で。
脱衣所で、携帯が震える音がした。一旦湯船から出て携帯を確認してみれば。ディスプレイに表示されている名前は赤井さんで。普段ならすぐに出るけれど、今はどうしても通話へと切り替えるのがとても怖くて。
ディスプレイを眺めたまま立ち尽くしていたら振動が止まった。恐らくこのまま私が電話をかけ直さなければ赤井さんはまたかけてくるだろう。
「っ………」
赤井さんから、拒絶の言葉を聞くことが怖い。
証人保護プログラムを受けるということは、私の命の危険を最小限にすることを意味する。きっと赤井さんはそれを考えてのことなのかもしれない。でも。
「あんなのは、酷いですよ……」
携帯を握ったまま、その場にしゃがみ込む。まだ身体は温まってなくて、このままだと風邪を引くかもしれないのだけれど。今はそんなことどうでもよくて。
さっき個室で話したとき、赤井さんには、私を拒絶するような"壁"を作られたことを感じた。アレが演技なのかそれとも本心なのか、私にはわからなかった。でも、私にその壁を壊す勇気なんてもっと無い。
頬を伝う涙を拭う術も、私には無かった。
+ + +
あの後、頭からシャワーを浴びながら泣きじゃくって。あまり脳に酸素が回らなかったのか、それとも風邪を引きかけているのか。妙に頭が重い。でも、どうしても寝る気分にはなれなくて。
とりあえず戸棚から薬を取り出して、処方通りに流し込む。外の雨はいつの間にか止んでいて。曇り空ではあるけれど、バイクを動かすのに問題はなさそうだ。
「夜のドライブでも、しますかね」
時間を見れば、日付が変わる直前。少しだけ気晴らしがてらにバイクを走らせることにする。電源を落としてしまった携帯と、家の鍵、バイクの鍵とヘルメットだけを持って外に出る。
外の空気は少し肌寒くて。でもまた戻って厚着するのも面倒なので、そのままヘルメットを被ってバイクを走らせる。
ドライブ、と言ってもそんなに遠くに行くつもりはない。すぐ近くの港にバイクを止めて、係船柱に座る。
(もし今ココで身を投げたら、少しは悲しんでくれるのかなー…)
少しだけ考えて、馬鹿らしくなって考えるのを止めた。水死体なんて、見れたものじゃない。身体に水分含むし、魚に身体を啄まれていたりすることもあるらしい。
柄にもなく落ち込んでるな、なんて考えて。
「どうするかなー…」
係船柱から降りて、空を見上げる。曇り空で、星は見えない。執着していたのは私の方だったのか、なんて思ったりする。
「あんまり上ばっかり見てて、落ちるなよ」
「……大丈夫ですよ」
近くまで車で来たのだろうか。遠くから歩いてくる赤井さんは、煙草を吸っていた。
2014.08.11
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