Marguerite

亡羊のようだった


赤井さんが私に手を伸ばそうとしたけれど、どう触れていいか分からなかったように空をさ迷った後に煙草を揉み消す為に使われた。

「珍しいですね、煙草吸うの。最近は減ってたのに」
「吸いたくもなるさ」

赤井さんは自ら距離を詰めようとはせずに、私と少し離れた位置で私を見る。今までのときとは違う、冷たい目。何が、彼をこうさせてしまったのだろうか。

「証人保護プログラムを、勧めにでも来たんですか?」
「そうだと言ったら?」
「……ずるい人」

まるで、私の考えてることなんて分かってるかのように彼は言った。分かってるかのように、じゃなくて、きっと分かっているのだろう。彼は、そういう人だと分かっていた。

「どうしてそんなに、私に証人保護プログラムを受けてほしいんですか」

ずっと、聞きたかった。彼がどうして証人保護プログラムを勧めてくるのか。
近くにいた、というのは私のうぬぼれなんかじゃない。彼から見たら妹みたいな存在でも、確かに私の近くにいてくれた。

「理由を言う必要は無いと思うが」
「……そんなに、私が邪魔ですか」

今までずっと、思ってなかったって言ったら…気にならなかったって言ったら、嘘になる。赤井さんから来てくれるから、見て見ぬふりをしていただけだ。
止めようと思うのに反して、どうしても、止められなくて。

「私、そんなに割り切れるほど大人じゃないです」
「……何が言いたい?」
「いっそ、邪魔なら邪魔と言ってくれた方が楽です。変に期待して失望するほうが、ずっとツラい」
「邪魔だと言ったら、お前は証人保護プログラムを受けるのか?」
「そんな簡単な性格、してると思いますか?」

私が赤井さんに試すように言えば、赤井さんは小さく息を吐いた。言われてはいそうですか、なんて言うほど簡単じゃないのは、赤井さんがよくわかっているはずだ。

「…気付いて、いるんだろう。俺が何を言いたいのか」
「私には、何のことか分かりませんよ」

拳を強く握って、赤井さんを見る。二人の間に、沈黙が流れる。赤井さんは額に手を当てて目元を隠す。
どれほどそうしていたのだろうか。赤井さんが手を退ければ、私を射抜くような冷たい目
をした彼と目があった。

「もっと、察しがいいと思っていたんだがな」
「生憎、貴方ほど私は大人じゃないんですよ」
「……消えろ。俺の前から、な」

彼を煽ったのは、自分自身だ。こうなることなんてわかっていた。むしろ、もっと酷い言葉を浴びせられるつもりだったから、この程度で済んだと思えばマシな方だ。
でも、ただ言われて終わりにするつもりなんかない。
彼に近づいて、胸ぐらを掴む。驚いたような顔をした彼を見ながら、私は腕を振り上げる。

「っ………」

乾いた音と、彼の息を飲むような声が静かな港に響いた。目の前に立つ彼は、何も言わずにただそのまま静止している。

「ずるい人……」

小さく呟いた言葉は、彼に届いたのだろうか。

2014.08.12
prev|33|next
back
ALICE+