Marguerite

空っぽになった王座


ジョディさんとジェームズさんから、証人保護プログラムの説明を受けた。大体予想通りというか。このプログラムを受ける以上は、日本からは離れなければならない。

(家の持ち主とかどうなんのかなー…)

案外腹を括ってしまえばそんなもので。日本を離れてしまうことに心残りはあるし、離れたくないという気持ちはある。でも、赤井さんにあぁ言われてしまっては居づらいというもので。

「見知らぬ土地に行くというのは、やっぱり少し不安?」
「私、英語喋れないんですよねぇ…」

個室で項垂れる私に声をかけてきたのは、ジョディさん。私がここに出入りするようになってからは気にかけてくれている。赤井さんとのことも知っているし、謂わば私の今回の証人保護プログラムの担当者のようなものだ。
やっぱり私も慣れないことが多いので、いろいろ親身になって話してくれることに助けられていることは多い。

「あら、意外ね。喋れるかと思ってたわ」
「もう全然。なんとなく言いたいことはわかるんですけど、それを返すことがですね…」
「なら、向こうに行ったときの為に助っ人を用意しておくわね」
「助っ人?」
「日本人で、ある程度話の通じそうな人よ」

ジョディさんがメモを取りながら私に告げた。着々と、向こうに行く話が進んでいる。もうアメリカ行きのチケットも取っているらしく、いよいよ話が本格化してきたと言えるだろう。

「話変わるんですけど…ジョディさん、英語と日本語以外の国の言葉ってわかりますか?」
「まぁ、全部が全部ってわけじゃないけれど知ってて損は無いようなところのはある程度ってところかしら」
「どこの国の言葉とか全然わからないんですけど…」
「力になれないかもしれないけれど、いいなら」

私自身、一度言われただけでその発音が正しいとは言えない。前に一度、赤井さんに言われた言葉。調べたいとは思いつつ、どこの国の言葉なのかがわからなかった故にそのままになっていた言葉。

「フェアラース マイネ? ザイテ、ニヒト…みたいな、感じだったんですけど…」
「言葉の感じからして、ドイツ語かしら…?聞き慣れてる言葉じゃないし、意味がわからないのも無理がないわね」
「その後に、シャラス?ザラス? アレスとも言ってましたけど…」
「あー……」

ジョディさんが頭を抱えて唸るような仕草を見せた。そしてチラリと私を見てため息をつく。

「あの……?」
「意味、知りたいなら教えるけれど…後悔しない?」
「今のうちに、聞いてスッキリしたいんです」
「……それと、意味を知った上で私からの提案があるんだけど」
「…それも、是非」

ジョディさんはメモに英語の羅列を書きながら、口を開いた。

 + + +

「…それで、悪い話じゃないと思うんだけど」
「確かに、悪い話じゃないですけど…。ズルくないですか?」
「それぐらい許されると思うわよ」

ジョディさんのメモを見ながら、机に項垂れる。そこには、前に赤井さんが言ったであろう言葉とその意味が書かれている。
まさかそんな意味があるとは知らなかっただけに、ジョディさんの提案に乗るか乗らないかで悩んでいるところだ。

「ジョディさんたち的に、それはアリなんですか」
「まぁ、出来ないことじゃないわね。勿論、それを隠すことも」
「うわー……」

汚い、さすが汚い。大人ってこうして事件とかを揉み消しているのだろうか。私も前の世界では成人済みの大人だったけれど。
ジョディさんの案は私はすごく乗りたい。楽しいことはとことん楽しみたいんです。

「……怒られるときは、ジョディさんも一緒ですよ?」
「あんまり怒りそうにはないと思うんだけど」
「わかんないですよぅ…」

もう、どうにでもなれということだろうか。私は諦めて、ジョディさんの案をもう一度頭の中で整理した。

214.08.14
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