前の世界でごくごく普通の一般家庭に生まれた私。勿論、飛行機に乗ることなんてそんな多くあったわけじゃない。搭乗手続きとかそういうのには手慣れていなくて。恐らく、ジョディさんがいなければ飛行機に乗ることすら危うかったと思う。
国際線だと出発の二時間前には空港にいた方がいいだなんて誰が知っているというのだ。
「あとすることって何ですか?」
「セキュリティチェックの後はもうそんなにすることはないわ。出発時刻の30分から20分前ぐらいに搭乗ゲートに向かうだけね」
「ちなみに、向こうについたら?」
「入国審査を受けるぐらいかしら…?まぁ分からなければ誰かに聞けば教えてくれるわ。空港の人だし日本語もわかるから」
国際線に乗るのは初めてで、正直不安なことの方が多い。余談だが、パスポート等はもともとこの世界に無かったので、FBIの方で用意してくれたらしい。
「どうしよう、不安しかない…」
「……健闘を祈るわ」
ジョディさんに敬礼をされ、私は同じように敬礼を返す。お互いに少し笑った後に踵を返して、セキュリティチェックを受けるべくゲートを抜ける。そのとき。
「呉羽」
もう、会うことはないのかもしれない、と思っていた人がそこにいた。どうして、なんて聞きたくても、言葉を発することが出来なくて。
ベルモットのときもそうだったけど、私は本当に、この人が絡むと駄目なんだなと感じる。諦めたつもりなのに、こんなにも、揺るがされる。
私が動けなくて固まっていると、赤井さんがフッと笑う。ジョディさんは来ることを知っていたのか、私に向かって手を振ってからその場を去る。
「お前は、俺に気兼ねして証人保護プログラムを受けなさそうだったからな」
「分かってて、あんなこと、したんですか」
「…あぁ」
ばつが悪そうに、赤井さんは言う。赤井さんから心から拒絶されてないと分かってホッとしたような、言ってくれればいいのに、というような複雑な気持ちになる。
きっと、このままここにいたら駄目だ。私は先に進もうと、足を踏み出す。
「呉羽」
赤井さんに名前を呼ばれて、振り返らずに足だけを止める。
「…俺は、お前の為なら死んでもいい」
呟くように、赤井さんが言った。あのときの言葉は確かに赤井さんに伝わっていたらしくて。答えなんて望んでいなかったし、そもそも答えが来るなんて思っていなかった。今、この場所で返すなんて、もっと思っていなかったことだ。
「……ずるい人」
最後にもう一度だけ振り向いて赤井さんを見れば、赤井さんはいつものように笑うだけだった。
2014.08.15
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