Marguerite

海を越えて彼方へ

 
飛行機に乗っていた時間は、半日以上だ。約13時間程。ちなみに偏西風の関係で日本に行くときはさらに一時間程かかるとのこと。正直腰が痛いです。
また、日本から見てアメリカの時間はマイナス14時間。日本からアメリカに飛行した場合は飛行機に乗っていた時間はまるっと無かったことにされるのだ。
午前中に日本からアメリカに向けて飛行機に乗ったはずなのにアメリカに着いてもまだ午前中という不思議な経験をしている。

「うーん、何か変な感じ……」

飛行機の中で寝ていたとはいえ、やはり時差を感じるのは仕方ないのだろうか。座り続けで固くなった体を動かしながら、辺りを見回す。確かジョディさんの話によれば、日本人の人が助っ人でいる、とのこと。

(もう少し特徴を聞いておくべきだったか…)

アメリカに日本人がいたら目立つと思って特徴を聞かなかったのがいけなかった。空港が広いのもそうだけれど、観光客なのか思っていたよりも日本人がいる。
前もって聞いておいたジョディさんの連絡先に連絡しようかとも思ったけれど、日本の時間は今のアメリカの時刻にプラス14時間。さすがにここで連絡するのは時間的に申し訳ない。

「ねぇ」
「え、」
「君だよね?篠宮呉羽って」

突然肩を叩かれて振り向けば、そこにはハットを被った私と同い年の一見男の子にも見えそうな女の子。そういえば、原作で前はアメリカにいたとか言ってたな、と思い出す。
ニコニコと笑う彼女は、私が驚いて固まってるのを見て首を傾げた。

「あれ、もしかして違った?」
「あ、や、合ってます。ちょっと驚いただけ、です」
「そっか!僕は世良真純!僕と同い年なんだろ?敬語なんて使わなくていいよ」

どうやらジョディさんが言っていたのは世良さんのことだったらしく、確かに彼女なら日本人だし守秘義務云々も大丈夫だろう。それに何よりなにかあったときに強い。さすが赤井さんの妹、というべきなんだろうか。

「それで?秀兄と喧嘩したんだって?」
「喧嘩……」

喧嘩、なのだろうか。正直喧嘩というには何か足りないというか、ちょっと違う気がする。

(うーん、何なんだろう…)

最終的に私が言った意味は赤井さんも分かっていたみたいだし、それを分かった上で最後にあの言葉を私に言ってきたのだろう。あれ、喧嘩じゃないよねコレ…。

「まぁ喧嘩にしろ喧嘩じゃないにしろ、あの秀兄をアレだけ骨抜きにしたんだ。嫌われてないことに自信持っていいと思うな」
「そうだと、いいんだけどなぁ…」
「何なら見るかい?秀兄から僕に来た、君のことが書いたメール」
「……遠慮します」

気にはなるけど私にそんな兄妹のメールを見る勇気は無い。というか何を話しているんだ何を。それでいいのかFBI捜査官。

「君がこっちにいるのは短いみたいだけど、こっちは事情も知ってるし安心していい。これからよろしくな?」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「敬語!同い年なんだからいらないってさっき言ったろ?」
「ご、ごめんなさ……ごめん」

思わず敬語で謝りそうになって、慌てて訂正する。世良さんは満足したのか、ニッコリと笑って私の手を引いて歩き出した。

 + + +

秀兄に頼まれた、僕と同い年の女の子。詳しいことは聞かされなかったけれど、何か重いものを背負っているのは確かで、どこか大人びていた。

(秀兄が気に入ったのも、わかる気がする)

時刻はもう午前2時。時差のせいで時間の感覚がおかしくなっていたらしく、なかなか寝付けなかった彼女が眠りについたのはつい先程のこと。軽く彼女の頭を撫でれば、擦り寄るように身を寄せてくる。
前々からあの秀兄が人を好きになるとどうなるのか気になっていた。けれど、まさかここまでとは。極力側に置いておきたかったみたいだけれど、叶わないから僕に託した。…あくまで、手を出さない前提に。

「僕が気に入る可能性も、考慮した方がよかったのにな」

眠る彼女の隣に転がって、彼女を見る。普段は大人びているのに、寝ているときは歳相応に見える。

「奪っちゃったら、秀兄怒るかな…」

呟いた言葉は、彼女にも、秀兄にも聞こえずに消えた。

2014.08.16
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