目を覚ませばそこは見慣れない天井で。あぁ、そういえば今アメリカにいるんだっけ、と思いながら体を起こす。人間の適応力とは優れたもので、個人差はあるだろうけれども私の体は時差にもそれなりに適応してきたらしい。
何故か私のベッドに潜り込んできている彼女は、まだ目を覚ます気配はない。時間を見ればまだ朝の5時。日本にいるときはウォーキングなりなんなりしていたけれどもここはアメリカで、空港から直接このホテルに来たので正直今外に出ても迷うことは目に見えている。
(そういえば、小説持ってきてたんだっけ……)
工藤君から借りたものではなくて、私物の小説を持ってきていたことを思い出す。突然アメリカに行くことになったものだから、工藤君は勿論、クラスメイトも突然言われるという形になってしまった。クラスメイトはともかく、工藤君には小言を言われるかもしれないな、と考えながら小説を取り出す。
ナイトバロンシリーズみたいな分厚い小説ではなくて、一般的に小説と呼ばれるであろう厚さもそれなりのミステリー小説だ。世良さんが起きてくるまでの時間潰しには丁度いいだろう。ソファーに座って、そのミステリー小説を開いた。
+ + +
「どこかに行ったのかと思っちゃった」
寝室から出てきた彼女の第一声。小説も後半に差し掛かっていよいよ謎解きが始まろうかという頃に彼女は寝室から出てきた。もともとこの小説も初めて読むものではなくて、謎解きも把握している。しおりを挟むこともなく私はその小説を閉じた。
「…せめて、服ぐらい着てほしいかな」
「コレが楽なんだ。女同士だし、いいだろ?」
冷蔵庫からペットボトルに入った水を取り出して飲む彼女の姿は、スポーツブラにボクサータイプのパンツのみである。私がいるから誰かが訪ねて来ても扉を開けられるが、居なかったらどうするのだろうか。まさかそのまま出るわけにもいかないし、バスローブぐらいは着るのかもしれない。
(裸族じゃないだけマシなのか…)
『今日はどうしようかなー』なんて外を見ながら楽しげに言う世良さんに目をやる。彼女の格好に関しては裸でそこら辺をウロウロされるよりはいいので妥協しておくことにしよう。けれど、一つ気になることがあった。
「そういう格好で部屋にいて、赤井さん……お兄さんに注意されなかったの?」
「そういえば秀兄の前ではこういう格好をしたことが無いなぁ。二番目の兄からは女の子なんだから、って言われたこともあるけどね」
あまり彼女は言われたことを気にしていないらしく、背伸びをしながら『あ、』と小さく声を漏らす。どうやら何か思いついたようで、私の目の前にあるテーブルに置き去りにされていたメニューを隣に座りながら手に取る。そのまま軽く目を通して、それを再び元の位置に戻した。
何を思いついたのだろうか、と彼女を見ていれば私の視線に気づいたらしく、何か悪戯を思いついた子供のように笑って見せた。
「どうせなら、ホテルのメニューなんかよりも外に行かないか?焼き立てのベーグルが食べれる、いい店を知ってるんだ」
「ベーグル……」
彼女から出た魅惑の言葉に、思わず頬を緩めながら復唱する。私が呟いたのを聞いた世良さんは、私と同じように頬を緩めて私の頭をくしゃりと撫でた。
「じゃあ、準備して行こうか。着替えてくるよ」
『君も準備しておいで』と言いながら奥の部屋へと世良さんは入っていった。
彼女が撫でた頭に触れる。撫で方も、その熱も、どことなく彼に似ている気がした。
2014.08.21
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