荷物をリュックサックのように背負って、再度窓縁に足を乗せる。10mぐらい飛び降りれなくてこの世界で生きていくなんて出来るわけがない。銃弾避ける人間がいるんだ、この程度やってみせる。
両の足を窓縁に乗せ、いざ飛び降りようとしたとき。ふいに背中の方から人の気配。縛っていた人質がここまで行動派だったのは、彼らにとっても予想外だったのだろうか。
パッと見たところ両の手に拳銃等は持っていないけれど、ポケットの中などには分からな
「……What?」
振り向いた目線の先にいた男は、何がどうなったのか分からないような顔をしている。茫然としている彼を置いたまま、私は窓から飛び降りる。
私が足を離すのと同時に建物の中から声が聞こえたけれど、今はそれどころじゃない。
落ちていく感覚に身を任せながら、手ごろにあった木の枝をつかむ。高い位置から飛び降りたことによってついた加速が、大きく木の枝をしならせた。それでも枝が折れるようなことはなくて、枝から手を放して無事に地面に着地する。
上を見上げれば、私が飛び降りたのであろう窓から、先ほどの男が何か叫んでいるが私は英語が全くダメなので何を言っているかは分からない。
(でもこれって誘拐ですよねー…)
もう一度捕まったら今度はおそらく逃げられない。キッチリ監視付きで監禁されるだろう。とりあえず人通りの多そうな場所を目指しながら走る。
暫く路地等の曲がりくねった道を走った後ちらりと背後を見れば、そこには追いかけてくる人はいない。どうやら撒くことができたらしい。
しかし、後を追いかけてくる人が居ないことに安堵するのと同時に今度は別の不安感が私を襲う。
(どうやって世良さんと連絡取ろう……)
こっちに来て間もない自分は、まだ道なんてほとんど覚えていない。そしてさらに不可抗力とはいえ誘拐されていた。警察に駆け込みたい気分だが、こちらの世界での私の存在というものはなかなか危ういものがあるので避けたいところ。最も、パスポート等が偽造ではあるが発行出来たのだからなんとかなってはいるのだろうが。
(英語をもっとちゃんと勉強するべきだったか……)
今更悔やんでも仕方ないのだけれど。動きまわって見覚えのある場所を探すか、それともじっとしていて世良さんを待つか…。果たしてどっちのほうが効率がいいのかを考えはじめたとき。
背後から近づいてくる足音に振り返る。
「……え?」
近づいてきたその人物の姿に、私は言葉を失った。
+ + +
こんなことになるなら、一人にするんじゃなかった。
呉羽と別れた場所に戻ったとき、真っ先に僕が思ったことだ。僕が関わっている事件のことを少し聞きに行っている数十分の間に、彼女がいなくなった。
『あのベンチで座って待ってるね』
そういったベンチには彼女はいなくて、辺りを見回してもそれらしき姿はない。
(こんなところで誘拐……?)
人通りは確かに多くはないが、それなりにはある場所。するにしても結構難しいハズだ。また、仮にそうだとしてもこんな痕跡ひとつ残さず連れされるようなものだろうか?
少なからず秀兄のそばにいた彼女なら抵抗だってするだろうしそれらしい痕跡を残していくはず。となると、無理矢理では無かった、ということなのだろうか。
「どこに行ったっていうんだよ……!」
まだこちらに来て間もない彼女が、入り込んだような場所に行くことは考えにくい。
ましてや、言っていた場所を離れるなんて……。
(とりあえず付近にいる人に話を聞こう……)
僕が1歩足を踏み出すのと同時に、携帯電話が着信を告げた。
2014.12.20
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