「何かお困りのことがございましたら申し付けください」
「ありがとう、ございます…」
ソファーに座る私に、男性は笑みを浮かべながら去っていった。状況が飲み込めない私は、果たしてうまく笑えていたのだろうか。
「こういったことは、もう少し手馴れていると思ったんだがね」
「慣れてないとは言いませんが状況が理解し難いです」
ホテルに泊まったこともあるし、それなりに高い店で飲食をしたこともある。人並み程度には対応することが出来る自信があるが、それは状況を理解していたらの話だ。
目の前で笑う男の人は、考える素振りを見せながら私を見ている。
「たまたま私と君がここで会った、というのではおかしいかい?」
「……ロサンゼルスの方にいるんじゃなかったんですか。優作さん」
どうしてこうなった。
路地裏で出会った優作さんは、何食わぬ顔で私に話しかけてきた。とりあえず自分が迷ってしまったことと軽い誘拐をされたことを伝えると彼は笑顔で対応してくれた。
その後、彼に連れられて歩くこと数十分。何故か世良さんと来ていたホテルの内装などを言ったところ心当たりがあったらしく、わざわざ案内してくれたのだ。
ただ、先程から時折優作さんがする電話に恐怖心を感じてはいるけれど。
(入り口の方が騒がしい…?)
今私と優作さんが座っているのは入り口の少し奥にある場所で、ここからは受付の様子は見えない。少し騒々しい方を見れば、優作さんが携帯の画面を見たあとに笑みを浮かべる。
「どうやら、君を連れ去った誘拐犯は捕まったらしい」
「え……?」
「簡単なことだよ。君の話からおおよその場所を割り出して、乗り込んで貰っただけのことさ」
そんな簡単でいいのか小説作家。
優作さんが警察だったり何だったりいろんなところに顔が利くのは知っていたけれど、まさかここまでだったとは思っていなかった。
「さて、そろそろ私はお暇させてもらおうかな」
「はぁ……」
「ここで君に会ったことは、有希子には内密にお願いするよ」
「……抜け出してきたんですか」
私が優作さんを見れば苦笑いを浮かべる。『くれぐれも、内緒でね』と言いながら、彼は私の元から去る。
(工藤君は、知ってるのかな……)
工藤夫妻が日本を発つ際に聞いたのは、ロサンゼルスの方に行くとのこと。工藤君の性格からして両親がどこにいようとあまり気にしてはいなさそうだけれど、ロサンゼルスから離れた場所にいることを伝えたほうがいいのか否か…。
携帯の画面を開いてみるも、そもそもここでこの携帯は使えないことを思い出して鞄の中に仕舞う。世良さんにも連絡取れないし多分探しているだろう。どうしたものかとひとつ息を吐いた瞬間。
「呉羽っ…!!」
大きな声で呼ばれた名前。振り向けば、そこには息を切らした世良さんの姿。
「世良さん、」
「よかったぁっ…!!」
「きゃっ…!」
私が立ち上がって謝罪の言葉を発するよりも早く、世良さんは私の腕を引いて自身の腕の中に私を閉じ込めた。
私の存在を確認するように、強く抱きしめられる。
「日本と違ってこっちは危ないところもあるから…何かあったらって思って」
「ごめんね…?心配かけちゃった」
「何もなくて、よかったよ」
私を抱きしめる腕から開放して、額と額を合わせて笑う世良さん。釣られて、私も笑みを浮かべた。
2014.12.28
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