Marguerite

宣戦布告油断大敵

 
私がそれに自覚したのは、いつだったのだろうか。気付きたくなくて、目を逸らしていたような気もする。

(好き、なんだろうなぁ……)

この感情が、今も別のものではないのだろうかと考えることもあるのだけれど。ただの、執着なだけなのではないかと。

「帰りたく、なくなった?」
「まさか。真純と離れるのは惜しいけれど、護りたい人がいるから」
「僕としては、行かせたくないんだけどなぁ」
「大丈夫、そんなに遠くないうちに来るんでしょ?"さよなら"じゃないもの」
「……呉羽には、敵わないや」

帽子をかぶり直しながら言う彼女に申し訳なく思いながら微笑む。
アメリカに来る前のあの日、ジョディさんから提案された言葉を思い出す。あのときジョディさんとしたことは、1つの賭け。ジョディさんが勝てば私は証人保護プログラムを受け、私が勝てば日本に戻るというもの。
賭けだったはずなのに殆ど賭けにならずに終わってしまったのも既に少し前の話だ。
アメリカで学べることは、嫌というほど頭に叩き込んだ。知りたかったことや、知らなければならなかったもの、全部。

(まだ、立っていられる)

赤井さんに拒絶されない保証なんて、どこにもない。けれど、前に言われたあの言葉が本心なのだとしたら。

「大丈夫。秀兄は、君を拒絶したりはしないよ」
「そうだといいなぁ」
「…もし何か言われたりしたら、私の方に連絡をしてきたらいい。お灸を据えてやる」

腕を組ながら、見た目は中学生ぐらいの彼女がニヤリと口角を上げながら言った。赤井さんのその姿を想像して、つい笑みを浮かべる。赤井さんも、彼女には弱いのだろうか。

「それなら、心配はないかもね」
「それに、僕たちもすぐに日本に向かうから」
「ん、待ってる」

ふと、空港にアナウンスが鳴り響く。もう、そんなに長く話しているような時間はない。ゲートに入っておいた方がいいだろう。

「……呉羽」

私がそろそろゲートに向かおうとしたことに気付いたのだろうか、真純が私の腕を掴んで引き留める。真剣な顔が、私を見つめた。

「……真純?」

ソレは、私が名前を呼ぶのと同時だった。目の前にある真純の顔。唇に触れる温もり。横から聞こえる、小さな溜め息。

「秀兄に、宣戦布告。油断してると、拐われちゃうよってね」
「真純なら、ホントに拐っていっちゃいそうだよ」

顔を見合わせて、笑い合う。大丈夫、さよならじゃない。また、日本で会える。

「またね」

二人に手を振って、私はゲートを通った。

2015.01.20
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