Marguerite

近くて遠い


いつもより、少し派手にした化粧。金髪に近いくらい明るい髪色のウィッグ。露出が高い服装。
全部、私の姿を見て"私"であることがわからないようにする為のものだ。バレない方が衝動的に動いたとしてもその場で止められることがない。

(まだ、赤井さんと会う勇気がないってこともあるけれど、ね…)

鏡で自分の姿を確認しながら小さく息を吐く。赤井さんに言われた言葉が、"消えろ"と言われた言葉が頭をぐるぐると回る。あの言葉は、きっと本心じゃない。そのずっと前に赤井さんに言われた言葉を信じていいのなら、私はまだ、赤井さんに向き合える。
もう一度、鏡で自身の姿を見る。大丈夫、この姿をパッと見て私を連想することは無いハズだ。

「…よし!」

ヒールの高い靴を履いて、家の扉を開ける。今から向かうのは、これからバスジャックが起こるであろうバスが来るバス停。始発から乗り込めば、一番後ろから状況を見ることが出来る。
バス停を目指して、私は足を進めた。

 + + +

バスの一番奥の窓際に座って、外の流れる景色を眺める。この席は、原作通りに皆が座ってくれたら赤井さんの隣。反対側にしようかとも悩んだけれど、こちら側の席を選ぶ辺り私自身赤井さんの傍にいたいと思うからなのかもしれない。
始発から少し経ったバスの中は既に人がまばらにいるけれど、そこに見知った顔はない。既に曖昧になりつつある記憶によれば、コナン君たちが先に乗ってきてその後に赤井さんやジョディさん、新出先生、最後にバスジャック犯が乗ってくるはず。

(コナン君が、私に気づかなければいいけれど…)

主人公補正、というものなのだろうか。彼の洞察力はなかなか怖いものがある。また、隣にいる哀ちゃんに何もないことを祈る。
そんなことを考えていると、バスの扉が開くと同時に賑やかな声がバスに響く。乗ってきたのは少年探偵団を名乗るあの子どもたちで、どうやら引率として阿笠博士が一緒にいるらしい。そういえば、阿笠博士と会うのも初めてだ。

「………?」

チラリ、と子どもたちに視線を向ければ、コナン君は私を見ながら首を傾げている。見覚えがあるけれど思い出せない。そんなところだろうか。ジッと私を見ていたのだろうけれど、その行動も隣にいた哀ちゃんに声をかけられて中断されることとなる。
再び流れ始めた外の景色に視線を戻す。今のところはコナン君にもバレてはいないようだし、哀ちゃんにも"イヤな匂い"がする、とは思われていないようで小さく息を吐いた。

それから暫くして。再び窓の外の景色が止まる。バス停には、まばらに人が待っている。

(……赤井さん、だ)

その存在に私が気づいたとき。突如バスの中に明るい声が響く。それはジョディさんが新出先生と共にバスに乗ってきたことによる声。私はあまり気にする素振りを見せずにまた窓の外を眺める。
一瞬携帯でも出しておこうか考えたけれど、私物から赤井さんに私が"私"であることがバレても困る。それに、バスジャック犯に携帯を渡すことになっても嫌だ。一時的とはいえ警察に回収される可能性も考慮して、今のうちに携帯の電源を落として鞄の中に放り込む。
コツ、コツ、と歩く音が聞こえた。それは、赤井さんの足音。姿は確認せずに、気配と窓に反射で映る姿だけで赤井さんが隣に座ったことを確認する。赤井さんもこちらを気にしている様子はなく、バレていないことに喜ぶべきなのか悲しむべきなのか少し葛藤する。
肩を並べる距離は、他人の距離。ほんの少し前まで近くにいたのに、先にその手を放してしまったのはどっちだったのだろう。

他人として肩を並べるその距離は、暫くは埋まりそうもなかった。

2015.01.29
prev|45|next
back
ALICE+