Marguerite

近付いて、離れて、


「騒ぐな!!!騒ぐとぶっ殺すぞ!!!」

視線を外に向けたままぼんやりとしていると、大きな怒号がバスに響いた。それは、バスジャック犯が乗ってきた合図。拳銃を乗客に向けたが、威嚇の為なのかソレを天井に向けて弾を放つ。
すぐさま一人が携帯を出すように指示をし、もう一人が運転手がかけた電話先に怒号を浴びせている。

「そこの女、携帯を出せ!」
「…忘れたのよ。だから持ってないわ」

乗客から携帯の回収をする男に手短に伝えれば、私の鞄の中を確認することもなく次の乗客へと声をかける。その隙に前方に座る哀ちゃんを見れば、フードを被って俯き、バスジャック犯に脅えているように見える。

(……赤井さんか、それとも、)

ベルモットが変装している、別の誰かなのだろうか。
そういえばベルモットが変装していたときのあの人と本物のあの人は微妙に眼鏡が違ったっけ。
全く関係ないことを妙なときに思い出す自分に内心呆れていたとき、バスの中に再度銃声が響く。
銃声がした右方向を見れば、携帯の回収をしていた犯人の方がガムを噛んでいた女に撃ったことによるものだった。それは、仲間でないということを周りに思わせるためのフェイク。

(それなりに考えては行動してるのよね…)

この後どうなるかというものは原作を読んで知っていても、それがその通りになる確証はない。私がこの世界に存在している時点で既に狂っていて、さらにそれから悪化する可能性もある。
身震いする身体を押さえつけるかのように両の手で自身の腕を掴む。
そのとき。

「……そんな顔をするな」

隣から聞こえた声。赤井さんを見ても、彼は前を向いたまま平然としている。

(まさか、気のせい……?)

赤井さんが隣にいることによって、とうとう幻聴まで聞こえるようになってしまったというのだろうか。それとも、本当に赤井さん自身の声なのだろうか。
それを確認する術はなくて、私はただ掴んでいた手を緩めた。

2015.01.31
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