コナン君の様子が後ろから見ることが出来る席というのは、正解だったようで。バスジャック犯の様子を伺いながらポケットからイヤリング型携帯電話を取り出すのが丸見えである。
勿論、私と同じ列に座る彼らの仲間からもそれは丸見えなのだろう。
「何してんだこのガキ!!」
ダンッ、とコナン君がバス内の通路に投げ飛ばされる音が響く。仕事が早いというか、なんというか…。
携帯電話を取られたコナン君が席に戻ると、どうやら後ろの席に仲間がいるということに気づいたらしくチラリと後ろを見る。
(さて、お手並み拝見といこうか?)
後ろの席に座っている、という時点で十中八九私も彼からすれば容疑者なのだろう。最も、私は横に座る三人とは違って特別何かを伝えるという手段を持ってはいないのだけれど。
必死に考えている工藤君を見ながら、口元に弧を描く。そのとき、バスジャック犯は通路にスキーケースを縦に二つ並べた。明らかに不自然な行動に工藤君も気付いたようで、ジッとスキーケースを見ている。
彼はほんの数分前に後ろに彼らの仲間がいる、と思ったことを忘れているのだろうか。バスジャック犯が背中を向けているとはいえ、大胆にも座席から降りてそのスキーケースを確認しようと手を伸ばす。
ちらり、と横を見れば、勿論ガムを噛んでいる女の人は口に付着したガムを左で取っている。バスジャック犯もそれを確認したらしく、コツコツとこちらに歩いてくる。
「またおまえか…」
地面に伏せてスキーケースを確認しようとした工藤君に、バスジャック犯が銃を突きつける。
「早く殺して欲しいんなら、望み通りにしてやるぜぇ?」
「コ、コナン君!?」
子供たちの焦った声が、車内に響く。刹那。
「止めてください!!ただの子供のイタズラじゃないですか!?」
工藤君を庇うように前に出た彼。子供を庇ってバスジャック犯に怒鳴るという勇気ある行動は彼の性格なのか、それとも……。
(なんて、考えても無駄か)
「それにあなた方の要求は通ったはず!!ここで乗客を一人でも殺すと、計画通りにいかないんじゃないですか?」
「何だとこの青二才……」
新出先生に拳銃を向ける男を、もう一人の男が止める。同時に、止めた方の男が意味深な言葉を漏らした。『アレに当たったらどうするんだ』、と。
その言葉の意味は、言わずもがな。銃弾にしろ何にしろ、派手な衝撃があると危ないということなのだろう。
(さて、どう出てくるかな)
工藤君の隣に座る年齢の近い彼女も、今は何者かによるプレッシャーにより俯きながら耐えている。きっと優しい彼女が一番に考えていることは子供たちの安全であって自身の安全などは二の次だ。
押し潰されるようなプレッシャーを発しているのが赤井さんではないのなら、今の私に彼女を助ける術はないわけである。
「…Don't have such face.」
「っ、」
小さく聞こえた言葉。それと同時に、重ねるようにして握られた右手。
英語で言葉を発したのは、バスジャック犯達に目を付けられないためなのだろう。こうして彼から触れてくれることに涙腺が緩みそうになるけれども、今はそれどころじゃない。溢れそうになるモノを堪えて、真っ直ぐと前を見据える。
「おい!そこの眼鏡の青二才と奥の風邪をひいた男!前へ来い!!」
バスジャック犯の声が、新出先生と赤井さんに向けられて放たれる。するり、といとも簡単に私の手を離した赤井さんの服の裾を、無意識に掴んでいた。
「……………」
「っ、あ………」
赤井さんが振り返って、マスクを少しだけずらして声は発することはなく口だけを動かす。
“――大丈夫だ。”
確かにそう動いた赤井さんの口元。その言葉を信じて、私は彼の服の裾を離す。それと同時に、マスクを戻した赤井さんは前へと向かう。
(どうして、何も出来ないの)
私は工藤君みたいな洞察力もないし、ジョディさんのようにバスジャック犯を丸め込むことも出来ない。大人しく守られるなんてことは性に合わないのだから、どうにかして動きたいというのに。
2015.02.01
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