バスが、トンネルの中に入る。それと同時にバスジャック犯は赤井さんと新出先生にスキーウェアを渡して床に座るように指示をした。
二人が着替えたことを確認すると、言葉巧みに『人質を取らせてもらう』と言う。上手いこと考えたものだ。
「一番後ろのガム女!」
「え?」
「おまえだ、前に来な!」
案の定、彼らはガムを噛んでいる女性を来させる。そして、運転手に見せつけるかのように、彼女の頭に銃を突きつけた。本当は、撃つ気なんてないのだろうに。
彼らは、自分たちの計画が成功すると油断している。工藤君もそれを理解しているらしく、探偵バッジを使って、子どもたちに指示を出している。
(トンネルから出てからが勝負だ)
大胆にも通路にしゃがみ込んでスキーケースに細工をする工藤君には、油断しきっている犯人たちは全く気づいていない。作戦は最後までキッチリやらないといけないというのに、とんだ間抜けである。
そして工藤君が細工をしているのと同時に、歩美ちゃんがガムを噛んでいた女性が座っていた席へと移動する。おじいさんがブレーキをかけた際の振動でこけたりしないためなのだろう。……私はいいのか、工藤君や。
遠回しに工藤くんから自分の安全は自分で護れと言われているような気がして苦笑を浮かべていると、バスはトンネを抜けて明るい道路へと出た。同時に、バスジャック犯から指示をされていた運転手はアクセルを一気に踏む。
「ヘタなマネするなよ…。オレ達の言う通りにやってりゃ助かるん…」
「よく言うよ…。どーせ殺しちゃうくせに」
「な!?」
勇敢にも工藤君はバスジャック犯に言い放つ。この後の展開を知っている私からすればどうってことはないけれど、ただ乗り合わせた何も知らない人からすれば頼むから子供黙っててくれよと思うのだろうか。
「だってみんなに顔を見せたって事はそーいう事でしょ?なんとかしないとみんな殺されちゃうよ…。この爆弾で!!」
阿笠博士と共に、細工をしたスキーケースを上に持ち上げる。口紅で書かれたその字は、『STOP』を反転させたもの。コレは、バックミラー越しに車内を見渡す運転手さんに向けたメッセージ。
ただ、運転手さんがそれには気付いていないらしく車が止まる気配はない。
「早く!!!」
工藤君の言葉を聞いた運転手さんがバックミラーに視線を移す。それと同時に、車内は急ブレーキによって大きく揺れた。
私は前の座席を掴んでなんとかやり過ごすが、ただ立っていたバスジャック犯は掴まるところがなく無惨にもその場に崩れ落ちる。激しく揺れる車内を見渡せば、歩美ちゃんはおじいさんを支えて元太君と光彦君は爆弾が爆発しないように守っている。
長く感じた衝撃が終わり、バスが完全に止まる。それと同時に動いたのは工藤君と、赤井さん。
工藤君がひらりと席から飛び下りて通路に着地するのと同時に赤井さんの手が犯人を止めるべく動いている。が、それが犯人に当たるよりも先に工藤君の時計から放たれた麻酔針が犯人に当たる。
驚いてる赤井さんがちょっと可愛いと思ったなんてことは言わないでおこう。
「新出先生!その女の人の両腕を捕まえて!!その人がつけてる時計は爆発の起爆装置だ!!」
ここで、もう一人のバスジャック犯の男が立ち上がって銃口を向ける。が、ジョティさんの蹴りにより阻止された。そのままジョディさんは犯人に馬乗りになって、怯えたようにガチガチと拳銃を鳴らす犯人の銃を持って安全装置の指摘をしている。
(肝座ってるわぁ……)
さすがFBI捜査官というべきだろうか。伊達に修羅場をくぐり抜けていない。
ジョディさんが拳銃を犯人から奪い『降参ですねー』という言葉に、バス内に安堵の空気が流れる。でも、コレで終わりじゃない。
「あ、ああ…」
「え?」
「逃げなきゃ、早く逃げなきゃ…」
新出先生に抑えられている女の人が、うわ言のように繰り返す。そう、まだ、この爆弾が残っている。
「い、今の急ブレーキで時計をぶつけて起爆装置が動き出しちゃったのよ!!爆発まであと30秒もないわよ!!」
彼女の言葉に車内が凍りつく。刹那、乗客は逃げるべく外に出る。私も乗客に紛れながら外に出る。
「ジョディさん、拳銃貸して…!」
ドサクサに紛れて犯人から奪った拳銃を、ジョディさんから奪うようにして借りる。哀ちゃんが車内にいることを、バスを出るときにさり気なく確認して。
彼女を助けるのは、私の役目ではない。私は、あくまで裏で動くだけだ。
「コナン君!哀ちゃんが!!」
「っ……!」
私の言葉に、コナン君がバスを見る。私が拳銃をコナン君に見せて目配せすれば、彼は彼女を助けるべく車内に向かう。大丈夫、一発窓ガラスに当てればいいだけだ。
(外すなよ、私…!!)
私は、窓ガラスに向けて安全装置を解除した拳銃を両の手で構えた。
2015.02.02
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