Marguerite

甘露水に溺れる

 
互いの口が離れて、荒い呼吸をしながら赤井さんを見上げる。目が合うと少しだけ口角を上げたのと同時に、首筋に顔を埋められる。

「っ、」

ビクリ、と肩を揺らすと赤井さんもそれに気付いたようで、軽く口付けて舌を這わせて鎖骨へと移動していく。その時。

――ガリッ

「いっ……!」

何かを噛むような音。同時に、胸元に走る痛み。見れば、鎖骨を赤井さんに噛まれていたようで。痕を残すようにその傷の上から吸って、別の痕を付ける。

「…コレが目が覚めてもあったら、夢じゃないだろう」

身体を離して、傷をなぞりながら赤井さんは言った。少しだけ上げられた口角を見て、赤井さんのしたかったことに気が付く。

「信っじられない……!」

平然とした顔で私の隣に座りなおす赤井さん。恐らく、最初から歯型を付けるだけのつもりだったのだろう。全部、私の反応を見て楽しんでいただけのもの。

「痛くはしないって言ったくせに…」

下げられたチャックを上げながら少しだけ嫌味を含めて呟く。鎖骨は赤く歯型が付いていて、同時に吸われた痕も残っている。学生服では見えることはないだろうが、体育というものがあるのだがどうしたものか。それに私服だと服によってはギリギリかもしれない。

「それとも、期待したか?」
「………おやすみなさい」

赤井さんに背中を向けて布団に潜り込む。ふてくされるように言い放った言葉を赤井さんが気にした様子はなくて、頭を撫でるその心地よさに瞼を閉じた。

 + + +

隣から聞こえてくるのは、規則正しい呼吸。撫でる手を止めてみてもその呼吸が乱れることはなく、彼女は完全に眠りに落ちていた。

「期待したか、な……」

むしろ、彼女の反応に期待したのは自分の方だ。このまま抱いてしまいたいと思った。誰にでも人懐っこく笑う彼女をどこかに閉じ込めてしまいたいと、汚い感情が溢れだしてしまった。
噛み付いたのは、自制の為だ。あのまま欲望に任せていたら、きっとそのまま彼女を抱いたのだろう。

(一回り以上も年下の子どもだというのにな……)

確かに中の精神年齢は自分と大差ない年齢だ。でも、今の彼女の見た目は高校生そのもので。その姿は、自分の妹と同い年だというのに、どうしてここまで惹かれるのか。我ながら馬鹿らしい、と思いつつも彼女を手放せないのは確実に自分のほうだ。きっと、一年以上も前のあの時から。

「呉羽」

名前を呼んでも、彼女は夢の中で。頬を撫でれば身じろいでその手に擦り寄る。ふてくされるように眠りに入ったというのに自分の手に擦り寄ってくるその姿は小さい子どものようにも感じる。
眠りに落ちた彼女を引き寄せて、自分も横になって後ろから彼女を抱く。ふわりと香る心地の良い匂いは、シャンプーか何かなのだろうか。

(癖で見ぬいた、なんてのも馬鹿らしいな)

そんなもの、表向きだ。自分の惚れた女ぐらい、多少の変装をしていようとも見抜ける自信はある。見抜けぬほど、馬鹿じゃない。
彼女に先に溺れたのは所詮自分の方か、と内心苦笑いをしながら、彼女の首元に顔をうずめて意識を落とすべく目を閉じた。
 
2015.02.08
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