Marguerite

静かな月のように

 
運命とは本当に不思議なもので、そのとき誰かが別の行動をすれば違った結果になった可能性もあるのだ。それを運命と呼ぶか宿命と呼ぶかは人によるのかもしれないのだけれど。
今目の前で眠る彼は恐らくサボりなのだろう。彼がサボろうと思わなければ私が会うことは無かったし、そもそも私がネットで近畿剣道大会の記事を見て気まぐれに時間があるし行ってみようなんて思わなければこうしてこの場にもいなかったわけだ。

(試合の時間、準決と決勝は2時からだったけど…)

ネットで近畿剣道大会の記事を見たとき、西の高校生探偵の通う学校、改方学園の名前を見つけた。何か事件はあったような気はするけれども、イマイチ思い出せなくて。まぁコナン君とはそれなりに話すけれど毛利さんと特別話すわけでもないし大阪組の二人と私は知り合いですら無い。遠巻きに見るだけなら大丈夫だと思ってチラリと会場に訪れてみたわけである。けれど。

(まさか、この人と遭遇するとは思わなかったなぁ…)

工藤君によくにた風貌で、少し長めの髪を一つに縛っている京都泉心高校に通う彼。浪花中央体育館の裏庭で恐らくサボっているのだろう。よく寝ている彼を見つけてしまった。
彼のことは、原作では本当に少ししか出ていなかったけれど工藤君によく似ていることから覚えていた。眠っている彼にゆっくりと近付いてみると、確かに寝息を立てていて眠っている。

「……起きないと、試合始まっちゃうよー…」

小さく声をかけると、眠りが浅かったのか彼が身動いだ。ゆっくりと開いた瞼と、視線が交わる。

「お、はよう…ございま、す……」
「…………………」

とっさに出た言葉。彼は瞬きひとつせずに私を見つめる。整った顔は赤井さんしか耐性が無いので正直ツラいです。
私を観察でもするように見つめたあと、口を開く。

「なぁ、今何時や?」
「え、あ……12時ちょっと過ぎたとこ…。試合、大丈夫…?」

彼が身体を起こしながら、私に尋ねた。素直にソレに答えて試合のことを尋ねると、驚いたように私を見る。そんな、変なことを言っただろうか?

「俺のこと知っとるんやな」
「京都泉心高校の沖田君、だよね?」
「ん、沖田総司。総司でええよ。アンタは?」
「篠宮呉羽…。サボり?」

本当に、名前だけでも剣道が強そうな名前だ。率直にサボりかどうかを尋ねれば、彼は苦笑いを浮かべながら立ち上がる。

「どうせ俺が出らんでも勝てるから大丈夫や」
「……服部君にも?」

彼にとって気にかかるであろう名前を出すと、彼は面白いぐらいにムッとしたような顔をする。服部君もそうだったけれど、やっぱり沖田君も服部君のことは気になる相手らしい。

「去年は俺が勝ったわ」
「棄権だった気がするんだけどなぁ」
「ええやん、どっちでも」

沖田君が拗ねたように横を向く。けれど、その視線はすぐに私の方へと戻る。

「アンタ、何処の高校なん?」
「私?関東の方の帝丹高校だよ。たまたま来ただけで応援する人がいるわけじゃないけどね」
「一人?」
「…友達がいないわけじゃないよ?」

こんなところに一人でいるなんて、確かに友達がいないようにも見えるけれどそういうわけじゃない。深く関わらないようにしていることは否定しないけれど、いるものはいる。
沖田君は何かを考える素振りを見せて、体育館を見た後にまた私を見る。

(……嫌な予感がする)

悲しいかな、こういうときの嫌な予感というものはよく当たる。沖田君は私の腕を掴んで、子供のように笑みを浮かべる。

「なら、特等席に案内してやるわ」
「えっ…ちょっと…!?」

特等席とは、それは名前はよくわからないけど選手がいるあそこではないでしょうか。和葉ちゃんが服部君のフリをした人に話しかけていたあの場所。同じ高校の制服だからこそ入れる場所であってそもそも私と沖田君は初対面だし学校も違うしそもそも私は私服で。
問答無用とばかりに私の腕を引いて、沖田君は体育館に向かう。なんとかしてその足を止めようと沖田君を呼べば、彼は足を止めた。だけれど、その顔は少し不機嫌そうで。

「……総司」
「え」
「総司でええ言うたやん」

沖田君…いや、総司はどうやら名前で呼ばれたいらしい。ぽつりと諦めて総司の名を呼べば、満足したようにまた足を進める。こちらの世界に来てから友人として名前を呼ぶのが彼が初めてになるだなんて、誰が想像しただろうか。メインキャラじゃないし諦めるしかないだろう。あとはもうここから服部君に繋がったりしないことを祈るだけだ。

2015.02.12
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