Marguerite

情熱が弄ぶ

 
「今更だけど、優勝したんだし打ち上げか何かあるんじゃないの?」
「ホンマに今更やな」

試合会場だったところからわりと近くの駅。一応米花駅までの帰り道は調べていたけれどやはり地元から離れている場所は不安なもので。いや、今住んでいる場所が地元なわけでもないけれど。それを知ってか知らずか総司が送ってくれるとのことだったので甘えて一緒にバスで駅まで来た。
私がいた高校ではこういう試合の後は打ち上げをしていた気がする。恐らくエースであろう彼がいないというのは如何なものなのだろうか。

「まぁ幼馴染がわざわざ東京から来とるんやし、送らん方が変やろ。一応女なんやし」
「…いつまで幼馴染設定引っ張るの」
「ええやん。俺、幼馴染って欲しかったんよ」

改札口前の電子掲示板を見ながら、総司が言う。工藤君に似ているからといって異性の幼馴染がいるというわけでもないらしい。似ているといっても全くの別人なのだからそれもそうか、と納得して電子掲示板を見上げる。私が乗車するのが来るには、まだ少し時間がありそうだ。

「部活の人たちに、すぐ戻るって言ってたのにね」
「……聞いとったんや」
「聞こえたの。私はたまたま通りかかっただけ」

どっちも変わらんわ、と総司が呟く。部活の人が待ってるのにここでギリギリまで引き留めるのも申し訳ない。少し早いけどホームに行くことを言えば、総司が私の腕を掴む。何かあったのかと総司を見上げれば、私の腕を掴んでいる反対の手をポケットに入れて、中から一枚の紙を取り出して私に差し出す。

「フラれたら慰めたるわ」
「え、私フラれるの?」
「フラれたら言うとるやろ」

総司が肩を震わせて笑いながら私の腕を掴んでいる手を離す。総司から受け取った紙を開けば、そこに書かれたのは11桁の数字と英数字の羅列。それを丁寧に折りたたんでポケットに入れる。そのまま洗濯しないように電車に乗ったら先に登録をしてしまおう。

「またね」
「おう」

総司に背中を向けて改札を通り抜ける。最後に振り向けばまだ総司がいて、小さく手を振れば総司も笑いながらソレに返した。

 + + +

「………………」
「あんまりそんな顔ばっかりしてると、眉間にシワが出来るわよ」

『随分と見覚えがある人がテレビに出てるんだけれど』と言って、ジョディに見せられた携帯の画面。そこに映るのは、確かに見覚えのある人物だった。剣道の試合が映る画面の端にいる、彼女。一人ならまだいい。同い年ぐらいの、少年と一緒に。

「この試合、近畿の方じゃなかった?わざわざそんなとこまで行ったの?」
「遅くはならないけど、ちょっと遠出するとは言ってたからな」
「同い年ぐらいの男の子よねぇ…。不安?」
「……予防線は、しているつもりだ」

耳元に残したソレは、恐らく彼女は気付いていないのだろう。指摘されて気付くのか、それともそのままなのか。

「予防線、ね。あんまり束縛したら嫌われるわよ?」
「普通なら、な」

強がりで意地っ張り、酔ってでもなければ素直に甘えられないような奴だからだろうか。彼女なら、それさえも束縛じゃないと、自分が彼女を好きなのだという証なのだと言えるのは。

(今日はホテルに行くかと思ったが……予定変更だな)

画面の中で笑う彼女が何を話しているのかはわからない。だが、頬を赤くして笑うその姿を自分以外に向けられることが我慢できるほど、出来た大人ではないつもりだ。

2015.02.27
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