「ただいま我が家…!」
家の中には誰もいないので返答は無いのだけれど、とりあえず玄関で言ってみる。新大阪から新幹線に乗って三時間弱ぐらいだろうか。駅から自宅まで適当に歩いてようやく帰り着いた。途中でちょっとタクシー使えばよかったかとも思ったけれど途中まで歩いていたのに乗るのは何かに負けた気がして結局乗らなかったせいで結構脚が疲れているようで、明日筋肉痛になったりしないことを願いながら荷物を置いてダイニングに入る。
(そういえば、ホテルの方に行くって言ってたなぁ)
赤井さんがいなければ当然ながら一人で。夜ご飯は簡単なものでいいか、と思った矢先に携帯が鳴る。噂をしたら、というやつだろうか。ディスプレイに出る名前に少し頬をゆるめて送られてきたメールを開く。中身は赤井さんらしくシンプルで、でも、内容は何か首を傾げるようなもので。時間が出来たら連絡が欲しい、との内容。仕事で、何かあったのだろうか。
不思議に思いながら赤井さんの携帯へと繋がる数字の羅列を探しだして通話ボタンを押せば、無機質なコール音が響く。それもまもなく、コール音が途切れて赤井さんへと繋がった。
「メール見たんですけど、何かありました?」
『…今日、家にはいるか?』
「いますよ、外泊面倒ですし。というか今帰ってきました」
『そうか。じゃあ、そっちに行く』
「じゃあ、夕飯作っておきますね」
『あぁ、頼む』
要件のみを私に伝えて、携帯は再び無機質な音へと変わる。
(―――?)
切られた携帯のディスプレイを見ながら、再度首を傾げる。何だか、赤井さんの様子が違ったような気がするのは気のせいだろうか。仕事が忙しい中かけてきたのか、それとも何かあったのだろうか。ピリピリしていた、ような気がした。
だからと言ってかけ直すのも悪い気がして。
とりあえず夕飯を作ろう、とキッチンに立つことにした。
+ + +
日が暮れて少したった頃、玄関の扉が開く音が聞こえた。出迎えようと玄関に行こうとして、赤井さんが視界に入るのと同時に私の脚が止まる。
(まだ、ピリピリしてる……?)
他の人が見たら分からないかもしれない、些細な違い。近付いていいのか、声をかけていいのか分からなくてその場に立っていたら、赤井さんが私に気付く。
「……呉羽?」
「え、あ…お帰り、なさい」
「あぁ」
フッと笑う姿はいつもの赤井さんで、でも、雰囲気はいつもと違って。そのままにしておくのは簡単だけど、どうにもそれは嫌で、私は真正面から赤井さんに抱きつく。
「呉羽?」
「……何か、ピリピリしてるから。赤井さん」
ぎゅう、と抱きついて、赤井さんの胸元に顔を埋める。他の何を捨ててでも、私は、この人は失いたくないから。赤井さんが私を離そうとしたけれど、腕を離さずに首を横に振る。
腕を離そうとしない私の様子を見てか、赤井さんは観念したように私を半ば無理矢理抱き上げてソファーへと移動する。抱き上げられていた私は赤井さんの足の間に横向きに座らされて、私は再度赤井さんに抱きつく。
「お仕事関係?」
「………近畿、剣道大会」
「え?」
「今日、行ってたんだろう?」
聞き慣れた大会の名前に、驚いて顔をあげる。赤井さんはあまり視線を、というよりは顔を見られたくないのか、私から視線を逸らして顔を片手で覆って口だけを動かす。
「ジョディに、中継を見せられてな。見覚えのある顔がある、と」
「……私?」
「一緒にいただろう?京都泉心高校、だったか。男子生徒と」
私は、赤井さんがピリピリしていた理由を聞いて。赤井さんは、テレビで私を見たと。総司と一緒にいた、という私を。
色恋沙汰には疎いところもあるけれど、ここまで言われて分からない程じゃない。
「……ヤキモチ?」
「……悪いか?」
「ううん、むしろ嬉しいですよ」
頬が緩んでいるのを隠すように赤井さんの胸元に顔を埋めて抱きつく。赤井さんが小さく息を吐くのと同時に、くしゃり、と頭を撫でられた。
2015.03.01
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