Marguerite

偶然か、それとも必然か

 
赤井さんと接触して、2週間が経った。生徒証明書はどうしたかって?そんなものはあきらめている。校内で使うことがあるわけでもないし本来は持っておくべきものではあるのだが如何せん連絡を取るのに気が引けるのだ。私はまだ死にたくないんです。
冗談は置いておき、生徒証明書を返して貰ってないのは事実だ。連絡しようかと何度か思ったのだけれど、相手はFBI捜査員。忙しいだろうし、私なんかの為に時間を取ってもらうのも申し訳ない。とりあえず電話番号とアドレスは登録したから機会があれば連絡をしようと考えてはいる。

(あれ、でも私のアドレスとか渡してない、よね…?)

確かあの時は車の中で赤井さんに電話番号とアドレスを渡されただけだ。私のは渡していない。……と、いうことは。私が連絡を取らない限りは赤井さんには連絡が取れない…?あぁ、こんにちは平穏な日々!

人生二回目による暇な授業にも慣れてきて。私は今のところ平凡な日々を過ごしていた。主要メンバーである工藤君や毛利さん、鈴木さんにはあまり近づいてない。話すことは必要最低限、といったところだろうか。プリントの回収とかせいぜいその程度。平和って素敵ですね。

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自分に死亡フラグが立たないってとても素敵なことだということを実感しながら帰宅していた。この前買いそびれた裁縫関係の本とどうせならとナイトバロンシリーズでも買っていこうかと陳列されている本を見ることにした。ホームズにもそそられはするがまずはナイトバロンシリーズだろう。

(でも、思ったより高いなぁ…)

やはり全国的に有名な優作さんの作品のせいなのだろうか。予想はしていたけれどやはりそれなりの金額はする。貯金を崩して一気に買うことも考えたが節約は一人暮らしの基本だ、無茶はしたくない。そもそもそれなりの貯金はあるもののこれから私はどう生活すればいいのかということもあるのだ。
とりあえず第一作目のだけ買おう。そう思って本に手を伸ばした時だった。

「それ、貸してやろうか?」
「…え?」

この世界に来る前に何度も聞いた声に動きを止めた。いや、聞き慣れていた声よりほんの少しだけ幼いだろうか。しかし、そんなこと今の私には関係ない。
この世界で一番関わりたくない、だけど関わりたい人物が、私の隣に立っていた。

「それなら全部俺の家にあるし、気になるっていうなら貸してやるよ」
「工藤、くん……」

約一年後、身体が小学生になってしまう工藤新一が、私の隣にいる。幼馴染である女の子は、いないけれど。
学校でも一言二言話したことあるかないかの彼は、今私に何と言っただろうか?確かに彼ならばナイトバロンシリーズは家に全巻あるだろう。けれど、普通そんな親しくもないクラスメイトに貸すのだろうか?というか、彼は。

「私の事、わかるの……?」

私はこの世界に来る前から彼を知っていたから顔と名前を把握しているが、彼からすれば私は出会って一ヶ月も経たないクラスメイト。よっぽど印象に残るようなことはしたつもりはないし、この疑問は不思議なことではないだろうし。

「クラスメイトの顔ぐらい把握してるっつーの。お前だって俺のことわかってるだろ」
「そりゃあ、工藤君わりと有名だし……」

女の子が工藤君を見て騒いでいるのは知っている。この顔だし、頭も良くて運動も出来る。年頃の女の子からすれば憧れても仕方ないだろう。最も、よく一緒にいる幼馴染の毛利蘭に気兼ねして想いを伝えるコは少ないらしいけれど。

「有名ねぇ…。ま、興味ねぇけど。で、俺の家に寄ってくれるって言うなら今日にでも貸すけど借りんのか?」
「……お願い、します」

クラスメイトになった時点で関わらないでいく、というのは些か不可能に近いことだったのではないのだろうか。あくまで多少話すクラスメイト。これ以上深く打ち解けていかないことを誓いながら私は他愛もない話をする工藤君についていくことにした。

2014.06.04
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