Marguerite

ため息みっつ

 
「なるほどな……」

納得したよう秀一さんの声が響く。ジェイムズさんが誘拐されたことについて秀一さんの知っている情報は殆ど無い。とりあえず今秀一さんが知り得ることはジェイムズさんが誘拐された、ということだけ。
秀一さんなら私の元の世界のこととかも全て知っているし、何よりこの事件のことの詳細を話したところで今この場所で何かをすることも難しい。その上で、秀一さんに細かい内容を話した。

「まぁあとはなるようになりますよ」
「ホー……」

遠くの方に、パトカーが見える。勿論、黄色のビートルも。
走行車線を変えた車は、ジェイムズさんが乗っているパトカーに並んで止まった。それと同時に、秀一さんは横のパトカーに向かって挑戦的に笑う。視線をそちらに移せば、パトカーの運転手は寒気がしたようで顔が青ざめている。

(私今秀一さんにあの顔されたら立ち直れる自信ないな…)

原作でも中々の怖さだったけれどコレは怖い。ヘタすれば泣く自信がある。こんなことを考えるあたり平和だと呆れ気味に息を吐いたのはここだけの話である。
信号が青になるのと同時に、車はパトカーを追い抜く。それを狙ったかのように、速度を上げてきた後ろの黄色いビートル。後部座席で助けを求める子供が三人。

「結局拳銃は使わないで終わりますね」
「使って欲しかったのか?」
「狙撃が見たいのは否定しません」

ジンを狙撃しながらニヤリと笑うあの姿がすごく好きなのは仕方がないことだろう。パトカーが集まる後方を確認しながら、この後の展開に笑みを浮かべた。

 + + +

秀一さんが車を停めたので、私は後部座席に移動する。それとあまり変わらないタイミングで、ジェイムズさんが車に乗り込んだ。

「お疲れ様です、ジェイムズさん」
「おぉ、呉羽君。久し振りだね」

お土産があるんだがそれは後で渡そう、とジェイムズさんが言うのと同時に車が動き出す。ジェイムズさんから子供扱いされているような気がするけれどお土産は素直に嬉しいので貰うのを楽しみにしておくことにする。

「さすがですね…。とっさにあんな暗号を残すとは…」

何だ、真面目に話すのか、と少し空気が読めないことを思ってしまったので私は車の外に視線を移す。一瞬でそれだけの暗号を残すことが出来るとは、さすがFBI幹部というべきだろうか。

「しかし驚いたよ…。君があの長髪をバッサリ切るとは…」
「ゲン直しですよ…。恋人にふられっぱなしなもんでね…」

ここで私がふられたんですか、なんて聞いたらさすがに空気が読めないので黙っておこう。すごく聞きたいけれどお口チャックにして我慢だ我慢。

「それで?わざわざ私を呼び寄せたのだから…その恋人とはよりを戻せそうなのか?」
「ええ…。後悔させてやりますよ…。私をふった事を…血の涙でね…」

煙草を咥えながら、ニヤリと笑う秀一さん。すごく悪人面をしているその姿はイマイチFBIとは思えないものだと考えていると、そのままルームミラー越しに私と視線が合う。

「それより呉羽、何か言いたそうだな」
「……いつ恋人にフラれたのかなーと」
「……………」

秀一さんが、呆れたように私から視線を逸らして小さく息を吐く。何を言っているんだコイツは、と無言で訴えられているのは気のせいだろうか。
ふいに、私達のやりとりを見たジェイムズさんが肩を震わせて笑う。

「どうやら、あの賭けは上手くいったらしいな」
「わりと無理難題でしたけどね」
「……待て、俺はその賭けとやらを詳しく聞いていないんだが」
「なんのことですかね」

しらばっくれようとしても無駄ならしく、秀一さんは無言でこちらを睨む。帰ったら後が恐いけれど、とりあえず今は落ち着かせるように息を吐いてしらばっくれることに専念しておくことにした。

2015.03.14
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