「それで、賭けとやらを聞かせてもらおうか」
「黙秘権」
「…………呉羽、」
呆れたように、秀一さんが私の名前を呼びながらため息をつく。ソファーに座る秀一さんは傍に居た私を引き寄せて膝の上に横向きに座らせた。
「大したことじゃないですよ?」
「大したことじゃないなら言えるだろう」
「…結構大したことじゃないかもです」
「報告連絡相談って知ってるか?」
どうやら私は秀一さんには口では勝つことが難しそうである。頭を秀一さんの胸元に預けてぐりぐりと押し付ければあやすように頭を撫でられる。どうにも、私は秀一さんに甘やかされている。
「俺は、そんなに信用がないか?」
「っ、」
切なげな秀一さんの声に私が顔をあげるのと、ほぼ同時だった。引っ張るようにして、秀一さんが私の左右の頬を掴んだのは。視界には、フッ、とからかうように笑う秀一さん。
「悪いが、俺はあまり待てる方じゃない」
むにむにと数回左右の頬を引っ張って、その手を私の膝の裏と脇に滑らせて持ち上げられる。急な浮遊感に秀一さんの身体にしがみつけば、どうやら移動するつもりらしくスタスタと歩き進められる。
「え、どこに行くつもりなんでしょう…」
「一つしかないだろう?」
「えー……」
移動する先に、嫌な予感しかしない。諦めてそのまましがみついていれば秀一さんは当たり前のように私の部屋に入って。当たり前のように私をベッドに降ろして。視界が秀一さんと天井だけになるのは、これで何度目なのだろうか。
「これは、私は何をされるんですかね」
「素直に話すというなら痛いことはしない」
「黙ってれば痛いことするってことですよね!?」
私に触れようとする手を掴んで些細ながらも抵抗をする。暫く押し合いをしていると、秀一さんが私の手を掴んでその指先に口付ける。手の甲、手首、と徐々に近付いて来るソレに、私の顔に熱が集まるのが分かった。
「呉羽、」
優しく呼ばれる声がとても心地よくて。押し合っていた手はとうに緩んでいて、指を絡めるようにして握られた手。秀一さんに甘やかされてきた私は、心底秀一さんに甘いのだろう。
(溶けて、一つになってしまえばいいのに)
それぐらいには、目の前の人を愛おしく思うようになってしまっている自分がいた。首筋、喉元へと口付けられながら、秀一さんの手を強く握る。
「…賭けの内容は、簡単ですよ」
「どうせ、俺が関わっているんだろう」
「よくお分かりで。一言でも秀一さんが私を引き止める言葉を発した時点で私の勝ち。たった、それだけですよ」
本当に、たった、それだけなのだ。今に至るまでの経緯はいくつもあれど、大きな点はそれだけ。そこに至るまでの道なんて、関係のないこと。
「あのときの、謎解きをしましょうか」
2015.03.16
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