「いや、それ絶対引き止めないですよ」
「そうかしら?秀も、引き止めたいのは山々だと思うけれど」
「多分ですけど赤井さんやるときは徹底すると思うんですが」
赤井さんが私を引き止めて、そこで私が証人保護プログラムを受けなければ赤井さんの計画は台無しとなる。というか進めておいて引き止めるのは何か矛盾している気がする。
「それに、書類の提出云々あるんじゃ…」
「本当に貴方が証人保護プログラムを受けるのを前提に賭けも同時進行すればいいと思わない?書類は提出さえしなければ問題ないもの」
「………いいんですか、色々と」
実際に受ける可能性もあるし、もしかしたら処理をしていたもの全てが無駄になるかもしれない。そんなギリギリのことをするよりもうキッパリ諦めて受けるつもりでいた方が断然に楽だろう。
それに、ジョディさんの上司…ここでいうならジェイムズさんだろうか。彼にも許可を得なければいけないだろう。
「まぁ私は秀がちょっと痛い目に合えばいいと思うのよね」
「お姉さん本音漏れてます、本音」
「あら、私をフッたんだからこれぐらいいいと思わない?」
ニッコリと笑いながら楽観的に言った。女の人って怖いですね。その為なら努力を惜しまないあたり怖い。
「…それで、悪い話じゃないと思うんだけど」
「確かに、悪い話じゃないですけど…。ズルくないですか?」
「それぐらい許されるわよ」
+ + +
「それで、話に乗ったということか」
「まぁ…面白半分、期待が少しみたいな…」
「期待?」
秀一さんの腕の中で、苦笑いをしながら言うと"期待"という言葉に聞き返される。なぜそこに食いついた、と思いながら紅潮する頬を隠すように秀一さんの胸に顔を埋める。
「秀一さんがもし少しでも引き止めてくれるなら、どんな引き止め方をしてくれるかなって…」
私の髪を梳くようにして撫でていた秀一さんの動きが、止まった。ピタリと止まってしまったその動きに、言わなきゃよかったかな、と思いつつ顔を上げようとした。が、それよりも一瞬早く、秀一さんが私のことを引き寄せて抱きしめる。秀一さんの中で何があったのか、と思い顔を上げようとするけれど、秀一さんの手によってそれは阻止される。
「あの、秀一、さん?」
「……頼むから、暫くこうしてろ」
「うん…?」
結局何があったのか分からないまま、秀一さんにすり寄る。
(あれ……?)
いつも、秀一さんにすり寄ったときに聞こえる心音。いつもと何かが違う気がして、その心音に耳を傾ける。すると、その心音はいつもより早くて。
(…照れて、くれた……?)
頭を押さえたのは、顔を見せたくないからだとしたら。仮定ではあるけれど、そのことが嬉しくて頬を緩める。
「…どうかしたか?」
「んー?秀一さんが引き止めてくれなかったら今こうしてなかったんだなぁって」
それらしいことを言って、秀一さんを誤魔化す。照れてくれたから、なんて言ったら引きはがされてしまいそうだ。
「それにしても、アレは引き止めたことになるのか」
「"お前の為なら死んでもいい"って、すっごい口説き文句だと思いますけど」
「お前には負けるな」
"月が綺麗ですね"
絶対に、秀一さんが知らないであろう言葉を選んだつもりだったのだけれどちょっと有名すぎただろうか。
「真純にもね、会いましたよ」
「…そうか」
「ホテルのお風呂広くて、あまりにも寂しくて一緒に入ったりしました」
「ホー…」
あ、私詰んだ。秀一さんの声のトーンでそう思うも、時すでに遅し。押し倒してくる秀一さんに、力いっぱい抵抗することにした。
2015.03.24
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