『貴方、何者なの?』
哀ちゃんの言葉を心の中で復唱しながら口元に弧を描く。コナン君と哀ちゃん、二人に疑われていることにワクワクが止まらない。
「……私からは、変な臭いはしない?」
「っ!?」
バッと驚いたように哀ちゃんが私を見上げる。口角を上げながら彼女を見下ろせば、危険だと判断したのだろうか。少し離れて距離を開けられる。
組織にいた人間からするという臭いは私にはわからないから分からないけれど、それは一体どんなものなのだろうか。
「大丈夫だよ、私は貴方に何もしない。貴方が、私の大事な人に手をかけない限り、ね」
「大事な、人…?まさか、」
彼女が思い浮かべるのは、一体誰なのか。私の予想が正しければ、恐らく銀髪のあの人。残念ながら、それは違うのだけれど。むしろあの人は正直興味がない。向こうからは興味を持たれているようではあるけれど、私には無いわけで。強いていうなら秀一さんの恋人は私だとでも言いたいぐらいだろうか。
「そうね、私の正体のヒントを教えてあげるよ」
+ + +
「あれ、呉羽は一緒じゃないのか?」
「えぇ、ちょっと買い物があるからって言ってたわ」
子供たちの方に歩けば、江戸川君が一人の私に話しかける。彼女は、私にヒントとやらを言って去ってしまった。ヒントと、言えるのかはよく分からなかったけれど。
でも、もしそのヒントがどれか1つでも本当なのだとしたら、彼女を見過ごすわけにはいかなくなるのだろう。
「あの人、気を付けた方がよさそうね」
「あぁ。組織の人間ではなくても、何か繋がりはあるだろうぜ」
「……さっき、面白いことを言ってたわよ」
私の正体のヒントって言ってたわね、と言えば刑事がいる手前大声を出せないからか小声で私を問い質す。
「『ただ与えるんじゃ面白くないから、本当だと思うものを選んで考えてよ。
1つ目は、自分は薬を使ってはないけれど理由があって身体と中身の年齢が違う。
2つ目は、ジンに目を付けられた故にFBIから証人保護プログラムを受けるように勧められたから蹴った。
3つ目は、組織に潜入していた諸星大の恋人。
3つの中のどれが本当のことなのか、考えていけば私の正体も分かるんじゃないかな』」
彼女の言った言葉をそのまま江戸川君に伝えれば、彼はどれが本当のことなのかを考えているようだ。けれど。
(本当のこと、というのは。いくつあるのかしら)
彼女は、3つのうちから本当のことを選んで考えてみてよ、と言っただけで、どれだけが本当のことなのかまでは言っていない。どれか1つは本当のことかもしれないけれど、もしかしたら3つとも本当の可能性もあるのではないだろうか。
それならば。
「どんな気持ち、なのかしら」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ。頑張ってね、探偵さん」
幸いにも彼には私の言葉が聞こえなかったようで一息つく。
3つ目の選択肢がもし本当のことなのだとしたら。それは明らかに私が宮野明美の妹、宮野志保だと分かった上でのことなのだろう。否、本当のことではないとしても私の素性を知った上でその言葉を放ったわけで。
最悪、目の敵とされるかもしれないであろうに。
(……どんな人、なのかしらね)
お姉ちゃんと付き合っていた、諸星大という人物は。
恋人ではなくても、名前を知っている以上はどういう人かぐらいは知っているのだろう。機会があったら、それとなく聞いてみようか。そう思いながら、未だに考え込む隣の探偵に呆れて息を吐いた。
2015.04.14
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