Marguerite

黒煙が舞う

 
コンビニで買ったものが入った袋をぶら下げて歩く。中にはペットボトルの水や氷、チャック付きの袋等今から起きることに備えたものだ。それが吉と出るか凶と出るかは分からないけれど、備えていて損はないだろう。

(さて、コナン君はどう出てくるかな……)

哀ちゃんにヒントを提示した以上、それはコナン君にも伝わっているのだろう。選べと言っておきながら全てが事実である選択肢。……いや、3つ目だけは嘘であるとも言えるかもしれない。私は、"諸星大"の恋人ではないのだから。
確かこっちから来たんだっけ、と曲がり角を曲がる。刹那。

――パンッ

乾いた音が、辺りに響く。それは、佐藤刑事が変装した高木刑事の頬を叩いた音で。

(いきなり修羅場……)

我ながらタイミングが悪いと思いつつ、袋の中から小さめの保冷剤を1つ取り出す。変装した姿が今は亡き人に偶然とはいえ似ていたら、やっぱり叩いてしまうのは仕方のないことなのだろうか。もう二度と会うことは出来ないであろう兄を思い出して、視界が滲みそうになるのを堪えるべく数回頭を左右に振る。
佐藤刑事がウィッグを被り直して、高木刑事の元を離れた。それを確認して、白鳥警部たちと話している高木刑事に近付く。

「…コレ、使ってください」
「え?」
「頬が赤いまま仕事をするのも考えものかと思いまして」
「君、は……」

押し付けるようにして、高木刑事に保冷剤を渡す。戸惑いながらもそれを受け取った高木刑事は、私のことを知り合いなのかと思い出すように私と保冷剤を見比べる。勿論、由美さんや白鳥警部、挙げ句にコナン君たちからも視線を感じるけれどこの際無視である。

「バスジャックの際に、事情聴取を受けた者です。その節はお世話になりました」
「あぁ、あのときの…」

高木刑事が、バスジャックの事件を思い出すように言う。そのとき、パレードの歓声が一際大きくなって周りの視線がそちらに傾く。それを見計らって、小さく会釈をして彼らの傍を離れる。私にはまだ、やらなければいけないことがあるのだ。
コナン君たちやパレードの人混みから少し離れた、高木刑事の車。反対側の歩道からしゃがみこんで靴を履き直すフリをして車の下を見れば、そこには不自然な紙袋。そして、由美さんに言われて車を動かすべく車に戻る高木刑事。
パレードで交通規制があるおかげで辺りに車はいない。普段ならしないのだけれど、小走りで道路を横断して車の前へと移動した高木刑事へと近付いた。

「今日は厄日だな……」

高木刑事の手から、鍵が車の下に落ちる。車の下の爆弾が爆発するのは、彼が鍵を拾おうと手を伸ばすのとほぼ同時のはず。

「え?」

鍵を拾う為にしゃがもうとした高木刑事の手を掴む。そして、腕をいきなり掴まれて驚いているのをいいことにほぼ勢いで投げるようにして車から彼を引き離した。
私が数歩車から離れるのと同時に、激しい爆発音。耳を塞ぎたくなるようなその音と共に爆風に見舞われ、飛ばされそうになるのを堪える。

「熱っ……」

高木刑事の安全の方を優先的に考えていた為、私と車の距離は被爆を受けない程度にしか離れていなくて熱気にさらされる。小さく息を吐いて煙の上がる車から離れて、いきなりのことに戸惑っている高木刑事へと手を伸ばす。ほとんど投げるようにして引き離したせいか、車から離れたところでこけるようにして尻もちをついていた。

「すみません、大丈夫ですか?」
「…どうして、爆弾があるって、」
「不自然に車の下に紙袋があったので…。それに、嫌な予感がしたんですよ。私の勘、こういうときだけはよく当たるんです」

私の手を掴んで、高木刑事が立ち上がる。確かに少しばかりスーツが汚れたけれど、原作みたいに激しくはないことに安堵する。
いつの間にか辺りは爆発によって騒がしくなっていて、近辺にいた警察が集まり始めていた。逃げ場を失ったことに苦笑しながら、燃え上がる車に視線を向けた。

2015.04.15
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