Marguerite

熱風が吹き荒れる

 
「た、高木刑事は!?」
「爆発したのは彼が車を移動するために近づいた時だったよ…。普通、あの爆発に巻き込まれたらまず命はない。
「え?」
「普通ならね」
「な、何ですかそれ?人がせっかく間一髪で助かったっていうのに、残念がらないでくださいよ!確かに彼女がいなければどうなっていたか分かりませんけど…」

高木刑事の安否が気になったのか、コナン君が走って現れた。さすがに助けたのでじゃあ失礼しますなんて言って去れないのが悲しいかな。コナン君にへらりと笑って手を振れば苦笑いを浮かべる。
少年探偵団の子どもたちは、高木刑事が無事だったことに笑顔を浮かべている。

「偶然彼女が車の下の紙袋に気付いたんだ…」

私の方を見ながら、高木刑事は説明をする。けれど、私の視線は別の方向。
いない高木刑事を助けようとする佐藤刑事を見て、走って彼女の元へ駆け寄る。由美さんが声をかけているけれど、聞こえてないようでひたすら車起こそうとしていた。

「佐藤刑事っ!!」

由美さんよりも一瞬早く、私が佐藤刑事を無理矢理車から引き剥がす。ほぼ初対面の私を見て驚いた佐藤刑事だったけれど、由美さんのなにしてるのよ!?という声に我に返ったように車の中の彼を…と言った。
車から引き剥がした彼女の掌はやっぱり火傷をしていて、とりあえずペットボトルの中に入っている水を無造作にかける。すぐにその火傷に高木刑事と由美さんは気付いて、同時に佐藤刑事が顔の角度を変える。

「すみません、刑事さんの応急処置を向こうでしてきますね」

彼女の手を引いて、彼らの傍から無理矢理に引き離す。恐らく、佐藤刑事の涙は見られてはいるのだろうけれど。今頃、高木刑事は松田刑事の名前を聞いているのだろうか。

彼らから離れたところで、応急処置を続ける。佐藤刑事が私に何も言わないのをいいことに、私は2本目のペットボトルの水を佐藤刑事の手にかけた。原作では結構酷いように見えたけれど、今回のは思ったよりも酷くないことに安堵して小さく息を吐く。

「……まだ、痛みますか?」
「ありがとう、もうそんなにないわ」
「一応、まだ水あるんでかけますね。女性ですし、痕が残っても大変ですから」

一応火傷の処置としては最初の20分程は冷やしておいた方がいいと聞いたことがある。私自身が広範囲の火傷をしたことがほとんどないから、あまりその記憶が正しいとは言えないのだけれど痛みの軽減なども含めて冷やすことに支障はないだろう。あくまで、冷やし過ぎない程度になのだけれど。
ペットボトルが空になったことを確認して、保冷剤とジップロックに入れた氷水を佐藤刑事に渡す。両方とも薄手のハンカチで包んでいるから、ある程度佐藤刑事の方で冷たさの調整は出来るだろう。

「貴方、どうしてこれだけの準備を…?」
「嫌な予感が、していたので。あと、3年ぐらい前に爆弾の事件があったときもこの時期だったのと、私なら観客に紛れて遠隔操作の出来る爆弾のを使うなぁと思ったんです」
「……そう、」

佐藤刑事が、小さく呟く。若干ではあるけれど、彼女の目には涙があった。視線が合ったので笑みを浮かべると再度お礼を言われる。

「……忘れたら、駄目ですよ」
「え……?」
「忘れようって思うと、いつまで経っても忘れられないから」

空になったペットボトルをビニール袋に入れる。まだ氷が残っているけれど、多分コレは家に帰るころには水になっているのだろう。
目を見開いて固まる佐藤刑事を見て笑みを浮かべる。ここから先は、私の仕事じゃない。高木刑事の役目だ。

「ただの女の勘です。気にしないでください」

亡くなったわけではないけど、私も会うことが叶わなくなった人がいる。会いたいという気持ちだけは、分かるつもりだ。

「掌の火傷、あくまで応急処置なんで後で必ず病院で診てもらってください」

絶対ですよ、と一言告げて佐藤刑事に頭を下げてその場所を後にする。コナン君たちは、今頃ビデオテープを見始めているのだろうか。一応負傷者は出ないということになっていたけれど、杯戸町公園の電話ボックスも爆破された筈だ。捜査の目を、警察目的から東京スピリッツへの度が過ぎた嫌がらせと思わせるために。
コナン君らは警察の人たちと一緒にいるし、私に関しては前に事情聴取された際の記録がある。もし必要なら何かしらの方法で後日連絡が来るだろう。

(向こうの安全は、コナン君に任せますか)

事件ホイホイではあるけれど、それに対する防御率も高すぎる彼がいるなら大丈夫だろう。最も、これが某ジッチャンの名にかけてだったら危ないのだけれど。恐らく私は旅行先で出会ったら死を覚悟するレベル。そこにコナン君もいたらもう生きて帰れないと悟りを開くかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えながら杯戸町公園へと向かえば、ほとんど人はいない。けれど、人のいない電話ボックスにはやはり不自然な紙袋。とりあえず残り時間はあとどれほどのものだろうか。そう思って電話ボックスの扉を開いて袋の中を確認する。

「っ…!」

その画面に表示される残り時間の無さに息を飲むのと同時に、踵を返す。

真後ろで、爆発音が響いた。

2015.04.20
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